One Point Interview

2021.10
トラブルの法的解決は専門家に
大切なのは事前予防

司法書士 魚本晶子事務所 所長 魚本晶子氏

 司法書士は法律の専門家としての国家資格です。不動産の登記などでお世話になったオーナー様も多いはず。弁護士があまり扱わない少額の裁判などで代理人も務められるなど、その業務は広範です。賃貸オーナーのアパート経営や相続、トラブル解決などに、司法書士はどのように関与し、またどのように資格者を活用すればよいのかを伺いました。

魚本 晶子
司法書士 魚本晶子事務所 所長

身近な法律のプロとして認知

―― まずは司法書士になられた経緯など、魚本さんのプロ フィールから伺います。

魚本 大学は法学部に行きましたが、別に司法試験をめざす学生ではありませんでした。就職したのは旅行会社です。男女雇用機会均等法が施行された頃で、張り切って就職しましたが、当時はまだ、企業で女性が活躍できる範囲は限られていました。組織に属さず、自分でやっていける資格はないかというのが動機です。資格を取って司法書士事務所に勤め、その後、共同事務所を経て、いまの事務所を立ち上げ20年以上になります。

―― 司法書士は法律の専門家といいますが、弁護士との 違いはどういう点ですか。

魚本 司法書士の主な仕事は、不動産登記、商業登記、遺言、成年後見、供託といったことです。また、裁判所に提出する訴状など法的書類の作成なども行います。

 以前は、書類作成までが司法書士、裁判は弁護士さんという区分けでしたが、2002年の司法制度改革で、法務省から「認定司法書士」と認められた司法書士は、簡易裁判所での代理人も行えるようになっています。

 簡易裁判所が扱う範囲ですので訴額が140万円までの民事訴訟、訴え提起前の和解、支払督促、証拠保全、民事保全、民事調停、少額訴訟債権執行、裁判外の和解、仲裁、筆界特定といったことです。

 弁護士さんがあまり扱わない小さな法的トラブルが多いですが、その分、身近な法律のプロとして認知されるようになってきました。「弁護士さんに頼むのはちょっと気が引けるから」と、まず司法書士に聞いてみる方も増えています。

土地取引や相続などでオーナー接点が多い

―― 本誌の読者であるアパート・マンションオーナーとの 接点はどのようなところにありますか。

魚本 不動産を所有したり、投資で売買している方であれば、登記手続などで司法書士に仕事を依頼したことがある方は多いのではないでしょうか。私の事務所のお客様でも賃貸経営をされている方は多く、そういった方の登記、遺言や相続手続きなどを数多く手掛けています。

 相続案件は、多くの場合、税理士さんからのご紹介でお手伝いしますし、賃貸住宅フェアなどに相談員として参加を求められ、その関係から仕事をさせていただくこともあります。家賃滞納や入居者間トラブルなどで、代理人として裁判や和解に持ち込むなどといったこともありますし、簡易裁判所では扱えない範囲となれば、弁護士に依頼しそのお手伝いをします。

専門家選択は能力と相性で

―― 賃貸オーナーから依頼される仕事を通じて、オーナー にアドバイスしたいことはありますか。

魚本 家賃滞納や立ち退き要求、さまざまな入居者間トラブルの解決は、当事者間だけではなかなか解決できないことが多いものです。しかし、裁判をするとお金も時間もかかります。そこで、しかるべき第三者が関与し、裁判以外での和解の道を探ることが得策となるケースもあります。

 その方法として、裁判外紛争解決手続、ADR(Alternative Dispute Resolution)というものがあります。裁判所での調停のほか、司法書士会でも調停を行うことができます。入居者トラブルなどの解決は、まずこちらから考えてみるのもよいかと思います。私も、東京司法書士会調停センターの調停人の名簿に登録しています。司法書士は全国にいますから、気軽に相談してみてください。

 また、これは賃貸オーナーに限りませんが、相続の対策や手続きではさまざまな分野の専門知識が必要です。司法書士はもちろん、税理士さんだけ、弁護士さんだけで解決・処理できるということはほとんどありません。最初に相談を受けた専門家、例えば税理士さんは、法律の解釈や手続き、あるいは不動産や保険など、それぞれの専門家の判断を踏まえて対策や処理を行うわけです。

 司法書士や弁護士さんが相続の相談を受ければ、当然、税理士さんに調査や判断を求めます。依頼される側で考えたときに大切なのは、その専門が依頼する案件についてどれだけ専門家のネットワークを持っているかということです。

 そして、ネットワークを持っているといっても、単に有資格者が揃っているというだけでは心配です。トラブル解決の多くは、そこで生じている感情的な問題を解決することが大事です。また、依頼者にとって重大な問題を任せるには、専門家の能力はもちろんですが、依頼者との相性といったものが案外重要です。

 相続など複数の専門家がかかわらなければならない案件で、窓口として相談を受けた場合は、依頼者との相性も考えつつ人選すべきです。私はそのようにしています。

―― 相性を見るとなると、依頼者のことをよく理解しない となりませんね。

魚本 その通りです。司法書士の仕事も、機械的に書類を作り手続きをすれば終わり、というものではないと思います。司法書士の場合、登記手続きの多い不動産会社などは別として、毎月の顧問契約をするということはほとんどありません。手続きをして報酬をいただいたら終わりという仕事なのですが、それでも「先代の相続対策をやってもらったので次も頼む」とご連絡をいただくお客様がいらっしゃいます。これは、仕事をお引き受けするうえで、お客様を理解しようと務めた結果だと考えています。

 社会人としてのスタートは旅行会社でしたが、実は当時の私の憧れの職業は、ホテルの「コンシェルジュ」でした。旅先の知らない街での時間を、旅人が快適に過ごせるためのお手伝いをする仕事です。そして今も私は、「コンシェルジュ」をめざしています。法的お手伝いでの「コンシェルジュ」です。行き先がわからない問題の解決を求めるご相談者、お客様の悩みに耳を傾け、理解し、寄り添い、解決に向けてとことんやり抜くことを心がけたいと思っています。
うおもと・あきこ 認定司法書士。中央大学法学部卒業後、旅行会社に勤務。その後、司法書士資格を取得、1999 年に独立して司法書士事務所を開設。不動産登記・商業登記・遺言・成年後見・供託などの業務を行うほか、知的障がい者にスポーツの場を提供する公益財団法人スペシャルオリンピックス日本(SON)の活動など多くの社会活動にも熱心に取り組む。東京司法書士会調停センター「すてっき」運営委員。

司法書士 魚本晶子事務所
東京都新宿区新宿一丁目15番12号千寿ビル6F
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2021.07
トラブルの法的解決は専門家に
大切なのは事前予防

松山・野尻法律事務所 弁護士 野尻昌宏氏

 物件の入居者間や近隣とのトラブル、立退きといった問題では、裁判など法律的な解決が必要な場合が多くあります。しかし、いきなり裁判というわけにもいかず、またどの時点から弁護士に依頼すればよいかわからないというオーナーも多いのでは。賃貸住宅をめぐるトラブルの法的解決を数多く手掛ける野尻昌宏弁護士に、弁護士に依頼する際のポイントを伺いました。

野尻 昌宏
松山・野尻法律事務所 弁護士

争いでは契約書の内容が問われる

―― 賃貸住宅に関わるトラブルで、裁判など法的解決が求められるものとしてはどのようなものがありますか?

野尻 集合賃貸住宅で最も多いトラブルは家賃滞納ですね。そのほかにも、他の入居者に対する騒音・悪臭等の迷惑行為や、居室の目的外使用など、さまざまなトラブルがあります。多くの場合、困った入居者に対して「立退きを求められるか」が大きな問題となります。

 家賃滞納の場合、もちろん滞納家賃を支払ってもらいたいのですが、特に居住用アパートの場合、滞納家賃の金額は数十万円程度というケースが大半。裁判をしても、裁判費用の方が高くなってしまうため、滞納家賃の支払いのみを求めて裁判になるというケースは多くはありません。

 むしろ、「こんな人には早く出て行って欲しい」ということで、家賃未払を理由に賃貸借契約を解除して明渡しを求めるようなケースが裁判になります。もちろん、滞納家賃の支払いも居室の明渡しとともに求めますが、もともとお金がなくて家賃を滞納するような人が相手になりますので、滞納家賃については「少しでも回収できたら良い」と考えるオーナーの方が多いですね。

 オーナーとしては、裁判が長引いて明渡しが遅くなるよりも、早めに明け渡してもらって新しい賃借人に貸して収入を得た方が有益ですから、滞納家賃については、「早めに居室を明け渡すのであれば減額もしくは免除する」姿勢で話し合い、和解による早期解決の条件として使われることが多くなります。

立退きは簡単にはさせられない

―― 立退きをさせるというのも、なかなか大変なようですね。

野尻 困った入居者に居室の明渡しを求めるためには、賃貸借契約を解除しなければなりません。しかし、賃貸借契約の解除は、例えば入居者が長期間にわたり家賃を滞納していて、何度も支払いを求めても払わないなど、明らかな契約違反行為があれば問題なく認められますが、明確に契約違反かはっきりしないようなケースでは、賃貸借契約の解除がそもそも認められないという場合も考えられます。

 例えば、集合住宅の1室を賃借人が仕事の事務所としても利用しているようなケースを想定しましょう。事務所として部屋を使用されると、一般的にはコピー機などの重い機械によって床が痛むのが早くなりますし、「日中、大人数の人が訪れてくることがあり、落ち着かない」などの苦情が他の入居者から出てくることもあります。

 しかし、契約書に「賃借人は、居室を居住用としてのみ利用し、事務所等として使用してはならない」など、明確に事務所使用を禁止する条項がなければ、事務所としての使用が契約違反になるとは直ちにはいえなくなってしまいます。

 仮に契約書に「居住用物件である」ことが記載されていたとしても、住居兼事務所として使用されていると、やはり明白な契約違反とはいえない可能性が出てきてしまうのです。

 このような場合に賃貸借契約を解除して出て行ってもらうには、契約書に「事務所としての利用は禁止する」という内容が明確に記載されていることが重要になります。その上で、事務所としての使用をやめるよう文書での通知を入居者に対して複数回行い、それでも入居者が事務所使用をやめない場合に、初めて賃貸借契約を解除することができることになります。

―― トラブル対応を弁護士に依頼するタイミングや費用を教えてください。

野尻 建物賃貸借契約のような継続的契約では、単純に「契約違反がある」というだけでは契約解除は認められず、契約違反の内容や程度から、契約当事者間の「信頼関係が破壊された」と認められることが必要になります。具体的には、入居者の契約違反があったとしても、賃貸人からそれを注意して是正することを何回か行ってもなお改善されないというような事情を証拠によって残しておくことが必要になります。

 そのため、例えば「騒音がひどい入居者がいるから何度も訪問して注意したが、半年経っても変わらないから弁護士に依頼して直ぐに出て行ってもらおう」と思っても、弁護士は改めて注意文書で騒音の改善を求めることから始めますので、結局、時間がかかってしまいます。

 困った入居者に対して賃貸借契約の解除と最終的な退去まで見据えて考えるのであれば、早めに弁護士に相談して、準備を進めていくことをお勧めします。

 費用面では、一般的には代理人として弁護士名義で文書を発送してもらう段階から、相談料を超える弁護士費用が発生することが多いです。当初の段階で弁護士費用が発生することが気になる場合は、例えば、弁護士のアドバイスにしたがって注意文書はご自身で作成して内容証明郵便で送るというような方法をとっても良いと思います。いずれにせよ、専門家への相談は早いに越したことはありません。

オーナーは「事業者」。契約は自身で確認

―― 入居者トラブル以外に、賃貸オーナーが留意すべき法律や契約の問題はどのようなことがありますか。

野尻 集合住宅のオーナーになると、入居者との賃貸借契 約以外にも、さまざまな関係者と法律関係を持つことがあります。その一つに、LPガス供給業者との間で締結する設備契約書があります。設備契約書には、ガス設備の所有権がLPガス供給業者にあることと、ガス供給契約が解除される場合にはその設備の残存価格でオーナーが買い取る旨が定められるのが一般的です。

 LPガス事業者を切り替える場合、通常は、この設備買取代金相当額を新事業者が負担し、旧事業者に直接支払います。しかし、法律的には、設備買取代金の支払い義務は、設備契約書を締結しているオーナーが負っています。金額について新事業者と旧事業者との間で話し合いがまとまらず、設備代金の支払いがなされないなどの状況が続くと、オーナーが旧事業者から設備代金を請求され、場合によっては裁判まで起こされてしまうというケースもあります。

 また、ガス代が安くなるという話で切替に応じたのに、新事業者がガス代の値上げを行ってしまい、結局、ガス代が以前よりも高くなってしまったというような話もあります。

 賃貸アパートのオーナーは「事業者」となりますので、LPガス事業者との間の契約に、消費者契約法などの保護は及びません。「甘い話」にすぐに乗ってしまうのではなく、きちんと契約書の内容を確認することが重要です。

 相手が入居者のときも、事業者の場合も、トラブルに対する最も有効な対処法は、できる限りの「予防」をすることです。先ほどお話した「契約書をきちんと確認する」ことも、重要なトラブル予防方法の一つです。さまざまなトラブルが生じた場合に適切に対応できるようにするためにも、契約書は管理会社や相手業者任せにせず、内容をオーナー自身が締結時にきちんと確認しておくことが重要です。
のじり・まさひろ 第一東京弁護士会所属。東京大学法学部卒。在学中に司法試験に合格し、司法研修所卒業後、弁護士登録。大分県弁護士会副会長などを務めた後、2020年から東京の松山・野尻法律事務所のパートナー弁護士となる。医療訴訟や刑事弁護、犯罪被害者支援などで活躍。相続や賃貸住宅オーナーのLPガス業者変更トラブルの解決も数多く手掛ける。

松山・野尻法律事務所
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2021.04
生活スタイルにあった
無理のない節税対策を講じていく

税理士法人 田尻会計 副所長 田尻重暁氏

 相続税の増税により、その節税対策は一部の資産家だけではなくなっています。アパート・マンションオーナーや中小企業主などから多くの税務相談を受けている税理士・田尻重暁氏に、相続税等での節税対策の基本について伺いました。

田尻 重暁
税理士法人 田尻会計 副所長

下町の中小企業主の相続・事業承継を支援

―― 田尻先生の事務所は事業承継の案件を多数扱っていると伺っています。

田尻 私の事務所は、東京スカイツリーがある墨田区にあります。父親が現役で所長を務める、今年で43年目の事務所で、私自身も事業承継の当事者でもあります。事業承継は自身の問題でもあるわけですから、「自分もできているかな」と考えながら、顧問先や銀行等からの依頼案件にお答えさせていただいています。

 少し前に『下町ロケット』というドラマがありました。あれは大田区が舞台だったかと思いますが、大田区、そして墨田区は東京の中でも町工場の多い地域で、中小企業、零細企業がたくさんあるところです。

 ただ事業者数でいうと1970年あたりが一番のピークだったようで、今ではその頃に比べて3分の1ほどになってしまっているということです。だんだんと承継する方がいなくなり、廃業するという会社も多くなっているからです。

 墨田区では行政をあげて、地域の経済団体、商工会議所をはじめ、いろいろなところが後継者の育成や事業承継に関するサポートを行っています。そのため、さまざまな自治体が墨田区の取り組みを視察にきたり、交流をしており、先進的な取り組みをしている地域でもあります。私も、商工会議所の東京地域、城東地域、いわゆる下町の足立区、墨田区、葛飾区、江戸川区などの事業承継の相談員をしています。

 中小企業、小規模零細企業は大企業とは違いますから、規模に応じた事業承継の形があります。またそれぞれの企業にはそれぞれの事情や、経営者の考え方もあります。それら数多くの事例から、その会社に最も適していると思われる事業承継のアドバイスをするのが、私の仕事です。

相続税大増税時代。節税対策は必須となった

―― 中小企業主には事業をやめ、マンション経営に変わったという方も多いと聞きます。

田尻 事業をやめたり縮小したりして、商店や事業所、あるいは自宅を賃貸用物件にして安定収入を目指した方も少なくありません。でも、2015年からの相続税の大増税で、いろいろ対策を講じないと税負担が大変だという方が増えています。

 すでに多くの方がご承知かと思いますが、簡単におさらいします。増税前の基礎控除は「5,000万円+法定相続人の数×1,000万円」でしたが、「3,000万円+法定相続人の数×600万円」に引き下げられました。仮に妻と子ども2人が相続すると、増税前では基礎控除が8,000万円もありましたが、増税後は4,800万円になります。

 以前は相続税対策などというと、一部のお金持ちだけの心配のように言われましたが、今では都内で土地建物を所有していれば、たいていの方が相続税の納税対象になってしまうようになったのです。実際、改正前に相続税申告の必要のある人は4.4%だったのに対して、基礎控除引き下げ後、課税割合は8.3%に倍増しています。

 また、もう一つ見落とせないのは、税率構造の見直しも行われたということです。法定相続分における取得分が2億円超3億円以下の場合は、相続税の税率が40%から45%へ、3億円超6億円以下は以前と同じ50%ですが、6億円超えだと55%となりました。もっとも、このぐらいの資産をお持ちの方は、相続が生じる以前から税理士などがその対策をしているでしょう。問題は、対策をしなければ相続税がかかってしまうけれど、何らかの対策を講じていれば負担がなくなるという範囲の方々ですね。
―― 相続税対策の基本はどのようなことでしょうか。

田尻 相続対策のポイントは大きく3つあります。1つは「節税対策」。税制の特例などを活用し相続税そのものを軽減することです。2つ目は、「納税資金対策」です。相続税は現金で納めますから、相続財産のうち、不動産や自社株の割合が高い場合は要注意です。

 そして3つ目は、俗にいう「『争続』対策」です。遺言書の作成などによりトラブルを防ぎます。ここでは、家族構成や相続財産の内容に注意が必要です。

 相続対策の成否のポイントは、「被相続人」、つまり財産を渡す方が、相続対策にどれだけ主体的に関わってくれるかだと私は考えます。ですから、相続対策をはじめる場合は、まず「財産の棚卸し」からスタートします。

賃貸経営の法人化メリットが大きい人とは

―― 中小企業主の中には自身のアパート経営を会社の新たな事業に加えたり、個人のアパート経営者でも法人化をする人がいます。

田尻 アパート経営で法人化するメリットはいくつかあります。ざっと挙げますと、外部信用力が向上する、家族へ給料を支給することができる、家族役員に退職金を支給することができる、欠損金が10年繰り越しできる、保険料や福利厚生費が会社経費となる、社会保険への加入で保険料が軽減できる……などなどです。

 一方で、法人化のデメリットは法人住民税均等割は毎年必要、経理・申告に手間と費用がかかる、法人のお金は個人と違い事業に関係する支出に使途が限られる……といったことが挙げられます。個人所得税が高い場合、不動産法人化による節税メリットを享受できるケースが多くあります。

 実際、相続対策でよく行われるのは、土地・建物が個人所有の物件の建物だけを子どもなど相続人が出資した不動産法人に売却する方法です。譲渡する不動産の取引価格について、鑑定評価を受ける等合理的な説明ができるようにする必要がありますが、建物を帳簿価額で譲渡できれば、不動産管理会社へ登録免許税、不動産取得税はかかりますが、オーナー個人に譲渡所得課税はありません。そして、法人は土地の所有者である個人に地代を経費として払い続けます。

 法人化はオーナー個人の所得税対策として有効です。個人所得税の最高税率は住民税含んで55%ですが、法人税の実効税率は30%前後です。高所得者ほど、その恩恵は大きくなります。また、会社に移転した所得は、本人へ地代及び給与、子供等へ給与として支給し、所得を分散させることにより法人・個人のトータルの税額も減少します。

 そして、オーナー個人の相続税対策では、「土地の無償返還に関する届出書」を提出し、不動産管理会社が個人に「通常の地代」を支払うことで、土地の相続税評価額が80%に減額されます。「通常の地代」とは、その土地の固定資産税の2~3倍程度の地代が目安と考えられます。

 ただし、これらはあくまでも理屈として考えられることです。個別の案件では、しっかりと実情を調べたうえで、その方やご家族のために必要な節税対策をご提案しています。

 相続税に限らず、節税はさまざまな角度から検討する必要があります。大切なことは、これらを考慮に入れながら、生活スタイルにあった無理のない対策を講じていくことです。
たじり・しげと 明治大学商学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了後、大手税理士事務所である辻・本郷税理士法人に入所。大手企業の税務を経験した後、実家である田尻会計(東京都墨田区)に入所。多くの中小企業の税務顧問を務める傍ら、地元の信用金庫や東京商工会議所の依頼で、事業承継の講演やコンサルティングを行っている。

税理士法人 田尻会計
TEL /03-3618-4403(代)
メール/tajiri-shigeto@tkcnf.or.jp
ホームページ/https://www.tajiri-kaikei.com/

2021.01
依頼者が抱える個別の事情に対応した
“頼れるエージェント”をめざす

株式会社アレルゴ 代表取締役 河井直也氏

 相続に関わるトラブルは、遺産の獲り合い=争続だけではありません。相続準備が不十分なまま相続人が認知症となってしまった場合や、被相続人が障がいをお持ち、または引きこもりといった社会生活でのハンディを持っている場合など、当事者それぞれの事情によりさまざまな問題が生じることがあります。近年増え続けるこうした相続問題の解決に多くの実績を持つ、相続・事業承継コンサルタントの河井直也氏にお話を伺いました。

河井 直也
株式会社アレルゴ 代表取締役

賃貸経営だけでなく生活全般をサポート

―― 河井さんが相続・事業承継のコンサルタントとして独立された経緯からお伺いします。

河井 建築士として入社した不動産会社で後に営業職に配属され、そのあと複数の店舗の営業統括を任されるようになりました。たくさんの資産家や事業主の不動産の運用などのお手伝いをしていると、必ずと言っていいほど相続や事業承継のご相談が出てきます。

 一般に不動産事業者は、不動産のビジネスでキャッシュポイントになるところでは一生懸命やりますが、ひとたび自らの守備範囲の外と判断すると、「税理士さんを紹介します」とか、「保険会社に話をさせます」というように、外部の専門家に丸投げしてしまうことが往々にしてあります。組織に属する者として仕方がないことなのかも知れませんが、私自身もそのような経験を積み重ねるうちに、本当の意味でのお客様の問題解決のサポートをしなければいけないと強く感じ、資産承継専門のコンサルタントとして独立しました。

 日本の家計資産の約7割が不動産で、その6割は60歳以上の世代が所有していると言われています。つまり、日本の家計資産の約4割が、近く相続を迎えるシルバー世代の不動産ということになります。また、今後10年で日本国内の中小企業の約1/3が廃業を余儀なくされ、約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があると言われています。

 このことからもわかる通り、資産承継問題の解決こそが今の日本社会、日本経済における喫緊の課題であり、個人、法人共にその資産に不動産が多く含まれている以上、我々不動産事業者はその問題解決に尽力する義務があると考えています。

 とは言え、不動産だけですべて解決できる訳ではありませんから、私自身も税金や保険などのさまざまな関連分野の勉強をし、独立後はそれぞれの分野の信頼できる専門家の皆さんとのネットワークづくりも行ってまいりました。

―― 具体的にはどのような問題解決をされるのですか。

河井 たとえば、勤めているときにこんな案件がありました。ご主人を亡くされ息子さんを1人で育てられている女性が、道路拡張で都内の自宅を売ることになりました。手にしたお金で代替のマンションを購入したいと私の元を訪ねられたのですが、私が気になったのは息子様が障がいをお持ちであったこと。

 たとえマンションに住み替えたとしても、いずれその女性も歳をとるわけですから、そうなったときに息子さんが暮らしていく収入を確保しなければならないと考えた私は、埼玉でアパートの1棟買いをするよう提案しました。買ったアパートの1室に親子で住んで、家賃収入を得るというものです。

 ご本人は猛反対されましたが、一つひとつご説明してご理解いただき、その結果、購入し移り住んだアパートの収益で、さらに1棟の収益物件と、都内に自宅マンションを購入するところまでになりました。

 独立後にこの方とはコンサル契約をさせていただき、賃貸事業の法人化、遺言や家族信託、任意後見等、その女性に万一のことがあっても息子さんが安心して生活できる仕組みづくり等をお手伝いしています。

 ここで言う万一の場合とは、急に亡くなることだけではありません。認知症になったり、寝たきりや意識がない状態でさまざまな判断が必要とされる場合、さらには息子様の生活資金を毀損する恐れのある延命治療を行うか否かといった重大な判断を、障がいを持つ息子様に代わりご本人が元気なうちに決めておく。また、ご本人が亡くなられた後も、息子さんの収入源である賃貸経営や生活を第三者がサポートし続けられる体制を整えることがこのコンサルティング契約の内容です。

 この方の事例は障がいを持つお子様の親御様だけでなく、引きこもりのお子様を抱える大家様にも参考にしていただけると考えております。近年大きな社会問題となっている引きこもり問題は、当事者と親世代の高齢化から「8050問題」とも呼ばれていますが、こうした事情を抱えている方々はとても増えています。

コンサルタント契約で長期間サポート

―― 賃貸経営のサポートから法人化、遺言、任意後見といった相続やライフプランニングまで全体をみるわけですね。

河井 実はこうした事情を抱えていたり心配をお持ちの方は実に多いのですが、一方でどこに相談すれば良いかわからず困っている方も多いわけです。全体をサポートするためには、先ほど申し上げたように税金や生命保険などさまざまな分野も絡んでくるため、不動産や保険といった自らのキャッシュポイントに限ったミクロの視点でのアプローチでは、本当の意味での解決にはなりません。そこで私は資産額に応じて月に1~5万円のコンサルティング料をいただくことで、自らのキャッシュポイントにとらわれず、お客様ご本人にとって最適な対策を一緒に実現していくことを目標としております。

 私は定期的にセミナーを開催し、ご希望の方には無料で個別コンサルをさせていただいているのですが、限られた情報の中でも可能な限り深いところまで掘り下げることで、多くの方に満足していただいており、8割以上の方はこの無料コンサルだけで終了となります。

 一方で無料コンサルでは対応しきれない、または長期にわたり対策が必要と思われる方とはコンサルティング契約を交わし、前述のコンサルティング料をいただきながら継続的なお手伝いを行っております。

 相続対策ではさまざまな専門知識が必要です。しかし、たとえば税の専門家である税理士の中でも相続税の手続きに詳しい先生はわずかというのが実情です。司法書士などの他の資格者や保険会社、不動産会社の担当者も同じで、専門分野に加えて相続のことも熟知している人はごく一握りだと言えます。さらに、個々のご家庭に特別な事情があれば、その解決をサポートするための知識やネットワークも必要です。被相続人の方が障がいをお持ちであるとか、頼れる親族がいないという場合、信頼できる後見人も必要になります。相続にお悩みの方を取り巻く現状、そしてお気持ちを包括的に理解でき、なおかつ信頼できる人を探して依頼するというのは大変です。

 それを年間数十万円で依頼できるなら全体としては安いものだ、そう判断される方が私のクライアントの皆さんです。

―― 1回の手続きでの報酬を払うのではなく、コンサルタント契約で長い期間サポートするということですね。

河井 相続対策というのは長い期間でやらねばなりません。また、依頼者の個別の事情によっては、依頼者が亡くなられた後も被相続人のサポートが必要な場合もあります。また、税法などは頻繁に変わりますから、その時々で対策の見直しが必要です。

 つい最近も贈与税の見直しといった議論が出ていますが、もしも贈与税に関する法律が変われば、これまでの不動産、生命保険、生前贈与といった相続対策の3本柱は崩れてしまいますから、当然見直しが必要です。そのような変化に対応し、いつもそばにいて対策を一緒に考える「頼れるエージェント」になりたいと私は思っています。

 もっとも、お客様との長いお付き合いで友人あるいは身内のようになってしまい、ビジネスとの境目があいまいになってしまうことが、いまの私の悩みでもありますが(笑)。
株式会社アレルゴ 代表取締役 河井直也氏
セミナーでの河井氏。
自社セミナールームでのセミナーのほか、
大手企業主催セミナーの講師も務める。
豊富なコンテンツのオンラインセミナーも好評。
かわい・なおや 約20 年の不動産会社勤務時代に、相続トラブルや事業承継問題を数多く経験し、その対策の重要性を痛感。相続や事業承継など「資産の承継」に特化したコンサルティングを行うべく株式会社アレルゴを設立。知識と経験を活かした包括的な提案とサポートで、お客様から高い信頼を得ている。

株式会社アレルゴ
TEL /042-444-0006(代)
メール/info@arergo.com
ホームページ/http://www.arergo.com

2020.10
相続対策は“時間”で変化する
準備済みでも常に見直しを

プルデンシャル生命保険株式会社 エクゼクティブ・ライフプランナー 三並新悟氏

 「すでに相続対策は済んだ」と考えていても、自身や家族、あるいは社会環境の変化により、その対策の効果が減じたり、なくなったりすることがある……そう警鐘を鳴らす三並新悟氏は、新法や保険商品を踏まえ、常に“対策の見直し”が必要だと語っています。

三並 新悟
プルデンシャル生命保険株式会社
エクゼクティブ・ライフプランナー

新法を知らず無駄にリスクを負うことも

―― せっかくの相続対策が、実際の相続で効果を発揮しないこともあると伺いました。

三並 「うちは顧問税理士に依頼して税金の試算も終わっているし、知り合いの司法書士に相談して公正証書遺言も作ったよ」という方や、「昔から管理をお願いしている不動産業者さんの勧めで、自宅の土地の一部に賃貸アパートも建て終わったところ。何だか土地の有効活用と相続対策になるという話で、おかげさまで満室だよ」という方のお話に、「さすがですね! よかったですね」で終わらせたいところですが、さてどうでしょうかということですね。

 長年相続の相談を受けて思うのですが、相続対策は時間とともに変化するという視点を持つべきだと思います。相続財産の評価は変動しています。現預金は使えば減りますし、貯まれば増えます。土地の路線価や建物の固定資産税評価ももちろん変わります。不動産評価に大きなインパクトを与える小規模宅地の評価減のルールは幾度となく見直されています。80%の評価減のルールが突然なくなったら焦りますよね。「これでよし!」と思って作った遺言書に書かれている財産内容は、ずっと同じでしょうか。たとえば、長男には不動産を、次男には現預金をと書かれた遺言書が出てきたけれど、あるはずだった現預金が介護費用や施設入居費等で無くなっていたらもめないでしょうか。

―― そう考えると確かに心配ですね。過去の準備が実際に台無しになってしまうということがあるのですか。

三並 こういう例があります。大都市郊外のある地主さんは、馴染みの不動産屋さんの勧めで500㎡の自宅の一部(300㎡)に賃貸アパートを建築しました。確かに貸家建付地の評価減や賃貸建物の評価減の効果も出せますが、平成30年から新設された「地積規模の大きな宅地の評価」に該当する土地であることを知らなかったのです。何もしなくても大きな評価減を使える可能性があったたわけですが、アパートローンの借り入れと、バス便の決して有利とは言えない場所での、賃貸経営リスクを負ってしまいました。

評価や法律の変化に対応しよう

―― 専門家にきちんと相談しないと失敗するということですね。

三並 そうです。しかし、その時点では専門家が関わって行った対策であっても、評価方法や法律などが変化すれば「逆の相続対策」になってしまう可能性もあります。

 一人暮らしの母Bさんは某信託銀行の勧めで平成26年1月に公正証書遺言を作成しました。内容は「横浜の自宅6,200万円(築38年。取得費不明)は都内在住の長女に相続させる」「金融資産3,500万円は関西在住の長男に相続させる」といったものでした。その後28年4月にお亡くなりになり、29年1月に遺言執行による不動産・金融資産の相続手続き終了後、長女は3月にBさんの旧居宅を売却しました。

 このケースですが、相続に詳しい方だとピンとくるかと思いますが、公正証書遺言を作成した時にはなかった「空き家特例」が有効に使える可能性があったケースだったのです。自宅をいったん姉弟の共有にして売却すれば、それぞれ3,000万円の特別控除が使える可能性がありました。この特例の詳細説明は省きますが、ざっと言いますと、6,200万円から310万円を引いて6,000万円以下となりますので、1,000万円以上もの譲渡税を払わなくてすむ対処もあったのです。

 このように、相続対策では時間で変化するということを知っておかねばなりません。ですから私は、相談者やご家族の状況の変化はもちろん、さまざまな環境変化に応じて、的確な情報提供を継続し、相談者と伴走し続けることを大切にしたいと思っております。

 たとえば、令和2年4月から「配偶者居住権」という権利が新しくできました。この権利は配偶者の死亡によって消滅し、所有権を持つ子が税負担なく、その土地建物全体の所有者になります。つまり、結果として二次相続対策として機能するわけです。これまでになかった考え方です。ですから私は、すでに遺言書の準備を終えた方も、いま一度チェックしてみることをお勧めしています。

 評価や法律の変化に常に目配せし、それぞれの専門家の判断をまとめ、整理した上で最適な対策をすることが相続コンサルにおいて重要だと考えます。

セカンド・オピニオンとしての相談も

―― 三並さんの相続に関する相談は無料だと伺いました。なぜ、無料なのですか。

三並 私は所属する生命保険会社の規程により、会社以外から報酬を受け取れない立場です。しかしながら、相続・事業承継と生命保険の親和性は非常に高く、非課税枠の活用や、納税資金対策、分割対策、介護や認知症対策等々さまざまな局面で効果を出せる可能性があります。

 ところが、国税庁統計年報平成30年度版によると、相続財産の中で 「生命保険金等」を残した人は26.7%、さらに相続財産に占める生命保険金の割合はたったの4.3%しかないのです。つまり、世の中の多くの方は生命保険の使い方を知らない。

 だから、ご相談いただいた方へ保険会社の社員として何かしらのご提案ができる可能性が高いわけで、その結果として無料相談が成り立つということなのです。もちろん、効果が出ない場合は保険利用のご提案はしませんし、加入を迫ったりすることは絶対にありませんので、どうぞご安心ください。

 最近は民事信託を相続に活かすケースも増えてきましたが、たとえば生命保険信託の活用という新しい考え方をご提供できる場面もあります。これなどは、私の立場だからこそ、より効果的な方法を立案できます。すでに対策に取り掛かっている方でも、セカンド・オピニオンとしてのご相談も承ります。Web面談にも対応していますので、遠隔地からのご相談でも大丈夫です。私のホームページやメール、お電話で「ポケット倶楽部見ました」と、まずはお気軽にご連絡ください。

みなみ・しんご 前職である不動産業界での実績を買われ、1995年にプルデンシャル生命に転職。その後、生保業界の優績者団体であるMDRT(https://www.mdrt.jp/)に25年連続成績資格取得し、現在クウォーター・センチュリーメンバー。相続・事業承継対策を中心としたコンサルを得意とし、セミナー実績も全国で多数。各方面の士業と綿密に連携し問題解決にあたる。相続・事業承継コンサルティングアワード2017の「優秀コンサルタント賞」に続き、同アワード2019では「大賞」を受賞。一級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP、宅地建物取引士、事業承継・M&A エキスパート。自らがアパート・マンションオーナーでもある。

プルデンシャル生命保険株式会社 多摩支社
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TEL /044-952-1351(代)
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2020.07
“トータルソリューション”を実現する
パートナーでありたい

A&Aプランニング合同会社 代表社員 新井厚至氏

 アパート・マンションオーナーの相続対策では、所有物件をどうするかが大きな問題です。また、そもそも相続対策で賃貸経営をはじめたという方も少なくありません。したがって、相続対策の相談相手に、不動産に関する知識や業界情報に精通した方がいれば心強いものです。今回は、不動産業界に精通したコンサルタントのお一人に登場していただきました。

新井 厚至
A&Aプランニング合同会社 代表社員

キーワードは「遺産分割」「節税」「納税資金」

―― 大手不動産会社におられた新井さんが、相続・事業承継のコンサルタントに転じた経緯を教えてください。

新井 転じたというより、もともと不動産会社に40年、定年まで勤めました。その間、宅地や住宅の開発・販売、不動産に関する調査・研究などに関わりました。住宅・オフィス・商業施設・ホテル等の複合開発では、その計画推進から賃貸・運営、設備・警備・清掃などの管理業務まで一切を経験しました。定年後の現在も、関係のハウスメーカーで不動産コンサルティングに関する社員研修の講師を続けています。

 相続や事業承継に関しては、会社が設定してくれたセカンドキャリアのための研修がきっかけで、興味を持ったファイナンシャル・プランナー資格の一分野として掘り下げて勉強しました。日本社会は、高齢化に伴い相続や事業承継に関するコンサルティングのニーズがさらに高まっていくだろうと考えましたから。勉強の成果として、仕事関係や知人の相談に乗りアドバイスをしていましたが、会社員を卒業すると同時に、コンサルタント事務所を開設して独立しました。

 相続対策のキーワードは「遺産分割」「節税」「納税資金」の3つです。具体的な手段としては、民法や相続税法の理解のもと、「生前贈与」「不動産」「生命保険」の活用が3本柱です。効果的な相続対策においては、これらの手段を複数組み合わせて活用します。私は不動産については当然、知識も現場経験もありました。不動産の仕事で、クライアントの土地活用や相続対策をサポートしてきたことが独立にもつながったわけです。

 また、生前贈与についても勉強してきましたが、生命保険については業界が違ったこともあり、もう少し深く学ぶべきだと考えました。そこでこの分野に知見がある方々が多い団体の勉強会に参加し、知識と人脈を広げました。現在は、保険会社の社員、弁護士、税理士、司法書士といったプロフェッショナルと協力して、依頼者に最適な相続対策を提案し、実行支援までコンサルティングしています。

入り口で迷子になっている人を支援

―― 「最適な相続対策」とは、どのような対策ですか。

新井 依頼者それぞれの方の個別の事情で、相続対策は異なります。「生前贈与」「不動産」「生命保険」が3本柱だとしても、そのどれをどう使うか、全体を眺めて多面的に判断する必要があります。しかし、多くの人にとって相続は初めて経験することで、誰に相談したら良いのかわからないというのが実情です。具体的な検討に入る前に、入り口の段階で迷子になっていると言えます。やっと相談できても、相談された人が、相談者にとって最適な方策を提案し、実行の手助けまでできているかというと、どうもおぼつかない状況も見受けられます。相続は一つの手段だけでは十分な解決策にはたどりつけません。税金のことしか理解がなかったり、不動産でしか解決策を提案できなかったりすれば、相談者にとっての最適な相続対策とはなりません。

 相続対策では、相続税の「節税」に目が向きがちです。しかし、例えば、不動産の相続対策で、立地や需要動向を無視した賃貸住宅建設計画では、相続税の節税はできても、資産価値が下がったり、稼働率の低下や借入金返済の滞りなどの将来の不安要因を作ってしまうこともあります。

 私は相続対策では「もめない、減らさない、安心・幸せ」を重視しています。そしてコンサルティングでは常に「全体最適」、トータルソリューションを目指しています。

 最近手がけた例でも、半年前に発生した相続による、相続税の納税資金がなく、延納について教えてほしいとの相談がご兄弟からありました。詳しくお話を伺うと、相続税の特例措置等を上手に使えば、申告は必要ですが非課税になる方策があるということが分かりました。申告期限の直前でギリギリセーフでしたが、広い視野で全体を眺めて多面的に知恵を出せばいろいろな方法が見つかるものです。

 この方の場合は、一年後に改めて資産の活用のご依頼をいただき、相続した古い賃貸兼用の自宅を指名競争入札で短期に高値で売却し、同時並行で新しい賃貸物件と自宅を購入することができました。節税だけでなく、ご家族にとっての今後の生活を含めたトータルソリューションも実現できたわけです。

法人化も有効な対策の一つ

―― 節税と収益アップは、アパート・マンションオーナーの誰もが求めることですね。節税のために法人化をするオーナーもいるようですが。

新井 はい、賃貸不動産のオーナーの相続対策では、法人化は有効な対策の一つです。

 例えば、ご主人が賃貸不動産をお持ちで、給与・年金も含めた課税所得が1,800万円を超えると、超えた部分の所得税+住民税の税率は50%です。不動産所得に対する事業税5%が乗ると55%になってしまいます。対策として、お子様が不動産所有会社を設立し賃貸不動産の建物部分だけでもご主人から買い取れば、賃料収入はすべて会社に入ります。お子様や奥様に役員としての給与を払えば、会社の経費になるとともに、所得の分散ができます。①ご主人の所得税・相続税が減る、②賃貸不動産の管理が法人に移るので、ご主人の認知症対策にもなる、③所得が次世代に移転できる等のメリットがあります。

 建物の売却代金はご主人に入りますが、子供や孫への生前贈与で減らせば相続税の削減につながります。贈与された子や孫が、そのお金で貯蓄性の生命保険に入れば家族の将来も安心です。もちろん、現在の家族の年齢・収入・健康状態・相続の方針・これからのライフプラン等を確認し、検討した上で総合的に判断します。

 私のモットーは「豊かなライフプラン、幸せ相続・事業承継」です。依頼者の相続対策のパートナーとして、現状の分析から解決策の提案、そして実践フォローまでを総合的に提供し続けたいと考えています。

あらい・あつし 相続・事業承継コンサルタント。(一社)家族信託普及協会会員、(一社)相続診断協会会員、(一社) 相続・事業承継コンサルティング協会会員。
 東京大学経済学部卒業後、三井不動産株式会社入社。宅地・住宅の開発・販売、不動産に関する調査・研究、大規模複合開発の計画推進や運営・管理等に携わる。2012年、A&Aプランニングを設立し代表に。
 中小企業診断士、不動産鑑定士補、宅地建物取引士、建設業経理事務士1級、ファイナンシャル・プランナー(CFP)など専門資格を多数保有。相続・事業承継のコンサルタントとして、コンサルティング、講演などで活躍中。

A&Aプランニング合同会社
TEL /044-987-1938
メール/a.a.plan2012@gmail.com
ホームページ/https://aa-plan.com

2020.04
不動産投資でも大切な“セカンドオピニオン”の考え

株式会社RIG 代表取締役 八木剛氏

 相続対策でよく耳にする「借金をすれば税金が減らせる」は、果たして本当でしょうか。世間では「節税のための不動産投資で大きな負債を負ってしまった」という話もあります。「安易に考えず先々のことをしっかり考えた投資を」と呼びかける不動産投資コンサルタントの八木剛氏にお話を伺いました。

八木 剛
株式会社RIG 代表取締役

財産を減らしてしまう節税は無意味

―― 「借金をすれば税金が減らせる」と安易に考えるべきではないという話を聞きました。どのような点に注意すべきでしょうか。

八木 税金対策を不動産の活用で行うのは、個人の相続よりも法人の事業承継の方が向いていると言えます。不動産は株や現金などと違い、相続時に分けるのが難しいことと、価格サイクルの周期が15年程度なので高く売れる時期とそうでない時期があるためです。

 「何に注意すべきか」と言われれば、節税をすることでトータルの財産を減らしてしまっては意味がない、ということをまず頭に入れてほしいですね。土地や建物の評価減で相続税や贈与税を下げたり、場合によってはゼロにすることもありますが、5億円の相続税を払わずに済んだけれど、不動産価値は10億円下がって結局5億円損した、なんて話は実はよくあるんです。

 借金をすれば税金が減るからという安易な考えでの投資はもちろんダメですし、相続や事業承継をした後の、5年先、10年先のこともしっかり考えて対処しなければなりません。例えば、地方の物件は相続対策に不向きですが、都市部の物件は相続対策に向いています。ですから、相続を受けた地方の物件をどうしても売りたくないのであれば、その地方物件を担保に入れて、都市部の物件を買うことで相続税対策が可能になります。

 一代で不動産などの資産を築いた方は不動産投資についての経験や知識がそれなりにおありですが、引き継ぐ側にはこうした知識がない方も少なくありません。私たちはそんな方に不動産投資に必要な知識を不動産経営塾を通じて学んでもらっています。節税などの情報は世の中に溢れていますし、金融機関や不動産会社などもさまざまに情報提供というか営業をしています。私もいろいろな相続セミナーに呼ばれますが、知識があまりない方々に、ハウスメーカーがアパート投資を推奨し、証券会社が株をお勧めするなどといったシーンを見るにつけ、大丈夫かなと心配になることがあります。

―― 八木さんはそのような方々にどのようなコンサルをされていますか。

八木 当社は相続や事業承継の支援がメインではありません。不動産投資のコンサルティングにあたって、その投資目的にあった方法をお手伝いします。一般的な顧問契約と同じです。

 相続を目的に不動産投資を使いたいとお話があれば、トータルで損をしない方法をお教えします。相続対策では保険の活用など借入等リスクを負わない方法もあります。でも、億単位の節税であれば、やはり不動産を活用する方法が効果があります。都市部で5億円の物件を買えば相続税評価は7割減り、3億5,000万円を圧縮することもできます。

 でも、ただ物件を買えばいいというものではありません。当社のクライアントの最近の例では、相続目的で借り入れて不動産投資をしてもらいましたが、その物件が値上がりし、すぐに転売して1億円儲けてもらいました。相続対策であってもキャピタルゲインを取りに行く。私は本来、不動産投資はそうあるべきと考えています。儲けた上で、さらに相続対策のための次の投資をしてもらいました。当社のこうしたクライアントは、当社主催の不動産経営塾の会員など固定的な方々です。不動産投資について一緒に勉強しパートナーとしてお付き合いしながら、不動産投資を拡大したり、専門のパートナー税理士法人とともに税金対策をしていきます。

―― 不動産投資では専門的な勉強が必要ということですね。

八木 どんな業界でも専門があります。例えば衣料業界でも、子供服専門業者もいれば、ウインタースポーツ用品専門の会社もある。子供服の業者がスキーウェアを詳しく説明できるかというと、なかなかそうなりません。不動産投資だって同じです。不動産仲介業者やハウスメーカーの担当者は決して不動産投資の専門家ではありません。でも、ハウスメーカーに不動産投資を委ねてしまう人は実に多いですね。

 ハウスメーカーは建物を建てることがビジネスです。悪意がなくても、投資の着地点は建てるところにもってきます。20年先も新築時と同じ家賃がとれて、同じ建物価値があるかのような投資回収計画を出してくるところも少なくありません。新興ハウスメーカーが勧めるアパート投資で失敗したという話が最近よく報じられますが、それならブランドイメージの高い大手メーカーが安心かというと、そうも言えません。大手に依頼する人は資産家が多いので、失敗しても破産はしない。だから顕在化しないだけです。

 不動産投資では不動産の知識のほか、金融、法律や税務など広範な知識が必要です。それをすべて専門家なみに習得するのは容易ではありません。でもまず基本を勉強することで、いろいろな視点、複数の専門分野があることはわかります。そうなれば、一分野の専門家でしかないハウスメーカーや金融機関の言うことを鵜呑みにすることもなくなります。相続や事業承継対策で不動産投資の提案があったとき、我々のような不動産投資を専門とする者の意見も聞いてみることをぜひお勧めしたい。セカンドオピニオンという考え方は、不動産投資においても大切なことなのです。

やぎ・つよし 関西大学経済学部卒業後、経営コンサルティング会社に勤務。その後、不動産管理会社を経て2015年に不動産投資育成株式会社(Realestate Investment Growth。現・株式会社RIG)を設立。東京と大阪を拠点に、収益不動産投資の専門コンサルティング会社、リスクを抑えたい投資家、老後資金や相続・事業承継対策を行う顧客に対して、目的に応じた提案を行う。これまで、1,000人以 上に及ぶ個人投資家に対し、収益物件を活用した資産育成のサポートを行っている。

株式会社RIG
本社 大阪市中央区南本町4丁目2番21号
TEL 06-6258-3737
東京支社 東京都中央区京橋2丁目5番2号
TEL 03-6228-7900
URL https://reig.co.jp/

当事者の信頼関係を維持するためにも関係者への丁寧な説明が大切

2020.01

ソニー生命保険株式会社 井出 裕之

 分けにくい不動産を兄弟姉妹等がトラブルなく引き継ぐには、当事者相互の信頼関係はもちろんですが、相続財産の評価とその処理についての丁寧な説明も大切です。保険会社に勤務し顧客のライフプランニングを行い、相続・事業承継のコンサルタントとしても活躍する井出氏に、土地や賃貸物件を所有する資産家の相続対策のポイントを伺いました。

井出 裕之
相続・事業承継コンサルタント
ソニー生命保険株式会社 エグゼクティブライフプランナー

相続コンサルはネットワークが大切

―― 井出さんの相続や事業承継のコンサルティングはどのような形でされているのですか。

井出 保険商品の販売をする私は、数年前に個人向けの営業から法人向け主体の営業に変わりました。企業経営者のライフプランニングでは相続や事業承継のことが重要です。また、以前からの個人のお客様でも、賃貸マンションなど不動産経営をされている方がたくさんいらっしゃいます。その方々の資産はどう引き継ぎをしていけばいいのか、そこに的確なアドバイスや情報提供ができなければならないと考え、相続対策の勉強を始めました。その成果をお客様に提供したり、セミナーをご案内する中で、具体的な相談案件が持ち込まれ、相続や事業承継対策のお手伝いをしています。「井出の保険契約にはコンサルも入ってる」「コンサルしてくれるから井出に相談してみたらどうだ」、そう言っていただけるようになりたいと思って活動しています。

―― 具体的なコンサル内容はどのようなことですか。

井出 日本では相続財産の多くは不動産です。不動産や税務などはそれぞれの専門家がいるわけですから、私はそういう人をパートナーやブレーンにして任せます。不動産に限らず、相続のコンサルタントはすべてを自分で処理するのではなく、まず、どんな専門家が必要なのかわかることが大切なのだ、と考えています。私はブレーンとなる専門家をたくさん持っていますが、私の仕事は、自分自身のこうしたネットワークを拡げ、お客様にとって最適なパートナーを探してくることにあるのだと思っています。そのお客様にとって何が一番大切で、どういう専門家が必要なのかを私が理解し、その専門家に丸投げをせず、お客様の代理者としてしっかり寄り添って依頼し、進捗をお客様に報告します。その全体が私のコンサルです。

親しい間柄でも丁寧な説明が大切

―― マンションやアパートなど、賃貸経営者の相続対策では、どのようなことを行いますか。

井出 具体的な例でお話しましょう。お子様の学資保険など私の以前からの保険のお客様より、相続対策についてご相談を受けました。東京郊外の住宅地にいくつかの土地を所有され、賃貸マンションも経営されている方です。その方のお父様は、さらにその先代からの相続時に借入れをしマンションを建てて相続を乗り切られました。そのお父様がお元気なうちに、相続について整理をしておくべきですということを申し上げましたが、その方も、またお父様にもご理解していただき具体的に着手しました。

 まず、土地の評価や賃貸経営での収支バランスなど、それぞれ専門家に依頼して調べてもらいました。するといくつかの問題点が浮かび上がってきました。例えば、賃貸マンションの経営は、借入金の返済に追われ下手をすると月次では持ち出しになりかねないことなどです。これは、お父様がお子さんたちに借金を残したくないというお気持ちから返済を最優先に考えた結果です。お子さんたちにとってはありがたいことですが、それで苦しくなっては元も子もありません。早速、金融機関に対して金利の引き下げを交渉し、借入期間の延長によるキャッシュフローの改善をしました。新規借入と借入期間の延長は相続財産の圧縮にもなります。そのほか、生前贈与や保険の加入、小規模企業共済への加入などによる節税、納税資金の確保など、賃貸経営 をされていることを踏まえた対策を行い、現在も継続して行っています。

 また、親族で土地を分有し、人に貸している土地がありました。これが代替わり後にトラブルになったり、売却の支障にならないように分有解消を行いました。分有していたごご親族とは皆さん大変仲が良く、ご理解がある方々でしたが、それでもとにかく丁寧にしっかりとご説明することが大切ですと申し上げたところ、当事者の皆さんが何度も話し合う場を持たれました。これは素晴らしいことでした。親しい間柄でも丁寧な説明が大切であるということ、それが相続対策で最も大切なポイントだと私は思います。

いで・ひろゆき 有名ホテルに勤務後、ソニー生命に転職。現在、新宿ライフプランナーセンター第12支社 エグゼクティブライフプランナー。個人向けコンサルティング営業で多くの顧客を持つ。最近は法人向け営業や事業承継対策、資産家のライフプランニングを担当。相続コンサルタントとしてセミナーも主宰している。

ソニー生命保険株式会社
新宿ライフプランナーセンター第12支社
東京都渋谷区代々木2-1-5 JR南新宿ビル17F
TEL 03-5358-1712 FAX 03-5358-1742

◎認知症による資産凍結を事前対策
 井出氏は認知症による資産凍結についての情報提供や事前対策も扱い、認知症を恐れている方、親の認知を心配されているお子様世代からの相談も多数受けています。

難しいことをわかりやすく、相続から空き家問題も解決

2019.10

R・F マネージメント株式会社 升田 良太郎

 空室問題は賃貸オーナーの悩みのタネですが、空き家問題も大きな社会問題となっています。老後を考える「終活」においても、自分の持ち家が将来空き家になって子供らに負担をかけない配慮も必要です。中国・四国エリアで相続や事業承継のコンサルタントとして活躍する升田良太郎氏は、依頼者の今とこれからの住まいの問題の解決にも関わっています。

升田 良太郎
R・F マネージメント株式会社 代表取締役
セミナー講師

生前の相続対策の必要性に注力

―― 相続・事業承継のコンサルタントになったきっかけから教えてください。

升田 もう8年前のことですが、私のファイナンシャルプランナーとしてのクライアントで公私ともにとてもよくしていただいていた経営者様が、2人たて続けに亡くなられました。残された奥様や息子様たちが、事業承継や相続の問題で大変な状況になったのを目の当たりにした中、当時の私はその分野の知識経験が浅く、お役に立つことができず、悔しい思いをした経験があったからです。それから生前の相続対策の必要性に注力し、後に相続対策セミナーを展開いたしました。

―― 升田さんの相続セミナーは、住宅設備機器メーカーのショールームでも開催されていると伺いました。

升田 岡山でのセミナーですね。住宅設備機器メーカーのタカラスタンダード岡山さんが主催する同社イベントやショールームでのセミナーの講師をしています。

 ショールームには事業者様から紹介を受けたお客様が来場され見積もりをします。でも、予算面での心配から発注をためらうお客様も少なくありません。そこで、リフォームユーザー様向けの「住宅ローン借換え差額で実質0円リフォーム提案」「住宅リフォームと一緒に家計のリフォームしませんか」という個別相談やセミナーなどを行うことでお客様の予算面の心配をなくし、結果として事業者様のご支援もしようという趣旨で行っているものです。

 また、同社とお取引のある事業者様向けには、「相続・事業承継セミナー」も行っています。

依頼者視点の専門家とのネットワーク

―― リフォームから相続の話につながるわけですか。

升田 直接そうなるわけではありません。けれども、バリアフリーリフォームなどを手掛ける事業者様の中には、お客様向けに老後の暮らしの安心をテーマとした取り組みをされているところもあります。私も、やはりタカラさんの取引 先で地域密着のリフォーム会社が主催するセミナーに招かれ、そこで個別相談を受けた方の相続のお手伝いをさせていただいたこともあります。地域で一人暮らしの方や空き家が増えていることから、地元の町内会の方からの要望もあって開かれたセミナーでした。

 私が相談を受けた方のお宅も、相続の手続きのほか、亡くなったお母様が住んでいた家が空き家となってしまい、その処分もお手伝いしました。修繕費や維持費のことを考えると、処分せざるを得ない。お話を伺い私が現地を見に行くと、敷地内に近所の人のクルマが勝手に停められているなど、空き家のままというのは問題が多いと実感しました。

―― 相続だけでなく、不動産の処分までサポートするのですか。

升田 もちろん私一人が全部やるわけではありません。相続申告に関わることはパートナーの税理士法人と相談しますし、不動産も信頼できる地元業者にお願いします。前述の空き家の処分では思いのほか早く、しかも希望額で売却できました。

 事業承継や相続対策は非常に難解ですが、私は常にお客様視点でわかりやすく解説することに努めています。パートナーの税理士も、専門用語はなるべく使わずに、依頼者にある程度の税のしくみを理解していただくことから始めるなど、私の考え方に賛同いただいた方にお願いしています。私たちの仕事はネットワークが大切ですが、ただ専門分野に強いだけでなく、依頼者に寄り添って問題解決に向けて一緒に考えてくれる専門家とどれだけ連携できるかが大切だと思います。

ますだ・りょうたろう タカラスタンダード岡山専属FP。事業承継・相続対策や資産運用について、セミナーで解説。わかりやすいと評判で、全国各地から依頼がある。また、地域に密着し、老後の安心快適な住環境づくりの推進活動をしている関連企業様との連携にも注力している。

R・F マネージメント株式会社
主な事業内容は、個人向け相続相談業務、生命保険の相談業務、中小法人向け企業財務体質改善の相談、セミナー講師業務など。

〒700-0804
岡山県岡山市北区中井町1-5-31-101
TEL/FAX:086-238-9886
携帯:090-7779-9943
HP:http://fp-rfm.com
E-mail:info@fp-rfm.com

(一社)相続・事業承継コンサルティング協会 会員
2018 年 優秀講師賞
2019 年 優秀コンサルタント賞(相続部門)受賞

依頼者に“寄り添う” 相続の専門家を輩出していく

2019.07 

 2015年の相続税の改正や2018年の事業承継税制の改正、そして2019年の相続に関する民法改正と、相続や事業承継に関する制度改正が続いています。相続をテーマとした書籍や雑誌企画も数多く出され、また相続セミナーも盛況です。


石野 毅
一般社団法人 相続・事業承継コンサルティング協会 代表理事/株式会社キーストーンFPコンサルタンツ 代表取締役



対策や問題解決のナビゲーター

―― 相続問題の相談というと税理士や弁護士といった専門家が思い浮かびますが、他にどのような専門家がいますか。

石野 相続の相談で最初に思い浮かべるのは、そういった“士業”の先生ですね。税務に関することは税理士、遺言や信託、後見制度、遺産分割協議、登記や名義変更などの法務に関することは司法書士や行政書士、係争事案になってくると弁護士というように、相談の内容によってその窓口が変わります。
 賃貸住宅など事業用の不動産をお持ちの方であれば、その価値を評価する不動産鑑定士なども必要ですし、士業以外の不動産のプロの調査や助言が必要な場合があります。株式や保険、さらには美術品など、財産評価や税金対策ではそれぞれの分野のプロの力も必要でしょう。こうした専門家、窓口を探すのはとても大変ですし、そもそもご自身の相続問題ではどのような専門家が必要なのか、すぐにわかる方も少ないと思います。


―― いざ自分の家の相続案件となると、やはり誰かに相談しなければ対策や問題解決は難しい。でも、誰に相談すべきかわからない人や、身近に専門家がいないという人は、とても多いのではないでしょうか。

石野 そうした方のために、相続の対策や問題解決のために、まずどのような対処が必要かを整理し、最善の道を進むための案内人となるコンサルタント……私たちは戦略ナビゲーターと呼んでいますが……それを養成しているのが私ども相続・事業承継コンサルティング協会です。
 この協会は、もともとライフプランナーとしてお客様の資産形成や生涯設計のお手伝いをしていた私が、お客様の人生の集大成ともいえる相続の対策で評価され喜んでいただいた事例を仲間と共有するために開いた勉強会や講座がスタートです。
 相続対策を考えるうえでとても重要なことは、現状把握と将来設計です。個人の相続の場合は、遺すべき資産状況の把握と老後の終活を含めたこれからのライフプランニングの検討が必要となります。さらに、その対策検討に有効なのが、生前贈与や生命保険、不動産の活用などです。それぞれにまつわる専門の知識も駆使して、相談依頼者サイドに立ったコンサルティングを全方位に行えることが、相続コンサルタントの理想像となります。


依頼者目線の相続コンサルタントを育成

―― 相続コンサルタントは不動産の活用や処分、税金問題などのすべてを引き受けるということですか。

石野 いいえ、全部を一人がやるということではありません。私どもの協会には、弁護士や税理士、司法書士など士業のパートナーもいますが、メンバーの多くは、生命保険・金融・不動産の業界で実績がある士業以外の専門家です。協会では彼らに、相続についての知識を身につけさせ、情報を与えることで戦略ナビゲーターたる相続コンサルタントにしていきます。相続に関することを全方位に行えると申しましたが、それは、士業も含めた最適な専門家に、依頼者の代理人として問題解決を依頼したり、進捗を管理し、評価することも含みます。最適な専門家を組み合わせる作業は、会員同士の協業や会員と協会のネットワークにより行うことができます。
 相続問題について、士業の方はとかく自身の専門分野だけで判断し解決をはかりがちです。専門的には正しい判断、対処であっても、「素人は黙っていろ」という姿勢はいただけません。そんなつもりはなくても、専門用語を使って事務的に対処してしまうと、依頼者の心にはわだかまりのようなものが残るものです。依頼者が抱える問題について、感情面も含めて“寄り添う”専門家が必要だと思ったことが、私がこの協会を立ち上げた大きな理由です。依頼者の目線で、依頼者と一緒に最も満足できる対策や解決策は何かを考える人、それが私たちがめざす相続コンサルタントの姿です。
 協会のメンバーは全国各地にいますし、協会を軸に常に情報交換をしています。お気軽にご相談いただければと思います。



いしの・つよし 1997年、ソニ-生命保険入社。2003年、エグゼクティブライフプランナー昇格。2005年、(株)キーストーン設立、代表取締役就任。2009年、(株)キーストーンFP コンサルタンツ設立、代表取締役就任。2017年から現職。


一般社団法人 相続・事業承継コンサルティング協会
2014年に石野氏が主宰する相続資産コンサルタント養成講座が開講。2016年、一般社団法人相続資産コンサルタント協会として設立。2017年、現協会名に改称。

TEL:03-6277-4734
E-mail:support@souzokujigyoushoukei-c.com

株式会社キーストーンFP コンサルタンツ
大阪オフィス
大阪府大阪市北区豊崎3-9-7 いずみビル5F
TEL:06-4802-1139 FAX:06-4802-1141
東京オフィス
〒108-0074
東京都港区高輪3-23-17品川センタービルディング7F
TEL:03-6277-4739 FAX:03-6459-3039

2009 年2 月、FP 事務所として創立。現在は、ファイナンシャルサービスを総合的に提供する企業グループとして大阪と東京を拠点に展開している。

相続の意外な盲点 コレクションの財産評価

2019.04 

専門家のネットワークを活用しよう

 アパート・マンションを所有する資産家の中には、美術品や骨董品を収集している方も少なくありません。相続にあたり、その評価や分配をめぐって思わぬトラブルが生じることは意外と知られていません。相続コンサルタントとして数多くの案件を手掛けている小林諭氏に、相続の“意外な盲点”とも言えるコレクションの財産評価や相続対策について伺いました。


小林 諭
一般社団法人 相続・事業承継コンサルティング協会 理事
株式会社キーストーンFPコンサルタンツ 取締役



価値がわからないからもめる

―― 美術品や骨董品が相続の意外な盲点だと聞きました。

小林 資産家の相続のご相談を多数受けていると、いろいろな場面に遭遇します。コレクションの問題も、その一つですね。相続対策の相談現場で、資産一覧表を作成しているとき、「こんなものがあるのですが…」と、何やら桐の箱に入ったものが恭しく出てくることがあります。なんだか高そうなものかとも思いますが、ご家族の誰もその価値がわからないということがあります。
 現金や預貯金、株や不動産は比較的わかりやすく数値化できますが、こういうものはすぐには評価できません。価値がわからない、評価しにくいと、当事者間で疑心暗鬼が起き、争いが生じる。「故人が大切にしていたものだから形見に欲しい」と言ったら、「それが高いものだと知っているから欲しがっているのだろう」と勘ぐられた、とか。価値がわからないから、そういう感情の行き違いが生じるのですね。
 美術品や骨董品、絵画や陶芸など、故人が収集されたものの価値をどう判断するかですが、まず、近・現代の絵画などの美術品は鑑定を通したものでないと本物とは認められません。鑑定書があれば、この作品が現在はいくらぐらいの価値があるかわかります。厄介なのは、古美術品です。これは鑑定書がありませんし、そもそも本物か本物ではないかもわからない。高く買ったものであっても本物ではない場合もありますし、本物ではない場合であっても高く流通するものもあるようです。古美術品に限らず、例えばブリキのおもちゃなどでも、コレクターがものすごい値段をつけるものもありますね。


コレクションへの家族の理解

―― 価値を知らずにいて、故人の死後、しばらくして価値がわかり売ってしまうということもあると思いますが。

小林 価値のあるコレクションは立派な相続財産であり、相続税の対象です。やはり相続時にしっかり財産として管理されるべきです。また、価値がわからぬまま価値のある美術品が処分されてしまえば、それはその家だけでなく社会的な損失です。
 よくあるのは、故人のコレクションを家族がまったく知らない、あるいは関心がないということです。終活を考えるのであれば、ご自分が趣味で集めたものであっても、それなりの費用をかけて集めたものであれば、それらは一度、評価をして相続に関係するご家族にわかるようにしておくことが必要ですね。また、ご家族もご自身が興味のないモノであっても、その整理をお手伝いし評価を正しく知っておかねばなりませんね。
 故人が大切にしていた遺品の価値は、値が高くつくかどうかだけで決まるわけではありませんが、相続税や遺産分割では、いくらするのかが大きな問題になるのです。


専門家のネットワークを活用

―― では、価値を知るにはどうすれば良いのですか。

小林 買った値段がいくらかも大事ですが、それが実際の価値かどうかはわかりません。買ったところがわかるなら、そこで再度評価してもらいましょう。鑑定や評価を行う業者もいますから、そこにお願いします。当然、信頼できる業者にお願いすべきですが、業者もものによって専門が違います。書画の評価ができるからといって、刀剣の評価も得意とは限りません。良い業者、良心的な業者は、自店のネットワークでそれぞれ専門の業者に評価を依頼しまとめてくれます。
 専門という点で言うと、相続コンサルタントでもこうしたコレクションについて詳しいという人は稀でしょう。相続コンサルでは金融や保険、税務、不動産などさまざまな知識が必要ですが、ひとりがすべてを網羅するわけではなく、必要に応じて各専門家や専門機関に任せた上で、コンサルタントが取りまとめます。
 私も相続案件を多数扱う中で、コレクションの評価についてのネットワークが必要になり、美術品の世界については日本でも有数の業者さんに評価をお願いしています。後々、税務調査があってもしっかりと説明できる評価を行えるところに依頼しているわけです。
 コレクションの価値は、多くの場合、その時代の流行などで変動します。ですから、その評価は「相続時」よりも、その前の「相続対策時」にやっておかねばなりません。相場があるものであれば、不動産のように10年に1度程度の見直しをすることも必要でしょう。コレクターの方は、投機目的でなく純粋にそれが好きで集めておられる場合がほとんでしょう。でも、後々の相続トラブルを防ぐには、コレクションの価値についても「対策」をしておくべきです。
 また、コレクションに限らず、相続対策はいろいろな面から考慮する必要があります。案件を数多く手がけた専門家のアドバイスを受けるようお勧めします。


小林 諭(こばやし・さとる)氏
大学卒業後、銀行に勤務。その後、保険業界を経て、ファイナンシャルサービスを総合的に提供するキーストーンFP コンサルタンツに参画。現在は東京オフィスにて、相続・事業承継のコンサルティングを中心に活動中。


株式会社キーストーンFP コンサルタンツ
http://www.kanameishi.com

大阪オフィス
大阪府大阪市北区豊崎3-9-7 いずみビル5F
TEL:06-4802-1139 FAX:06-4802-1141
東京オフィス
東京都港区高輪3丁目23-17 品川センタービルディング7F
TEL:03-6277-4739 FAX:03-6459-3039

2009 年2 月、FP 事務所として創立。現在は、ファイナンシャルサービスを総合的に提供する企業グループとして大阪と東京を拠点に展開している。

賃貸経営者に求められる マーケティングの視点

2019.01 

「北海道大家塾」の活動


 大手ハウスメーカーのアパート建築営業や道内大手不動産会社での一棟売アパートの販売などで賃貸業界に関わり、その後自らもアパートオーナーとして賃貸経営を始めて独立。多くの専門家をパートナーにして賃貸オーナーへのアドバイスや支援実行を行うコンサルタント、原田哲也氏にお話を伺いました。


原田 哲也
オーナーズビジョン株式会社 代表取締役
不動産実務検定北海道支部 支部長
北海道大家塾 塾長



大家さんに勉強する場を提供

――まず、原田さんが主宰する「北海道大家塾」の活動内容と、それをはじめたきっかけについて教えてください。

原田 私は現在、「一般財団法人日本不動産コミュニティー(J-REC)」の北海道支部長として、大家さんに「賃貸事業」の知識をお伝えし、経営に活かしてもらうための活動を行っています。賃貸住宅経営は事業ですから、そのための基礎的な知識は最低限身につけていなければなりません。その賃貸経営のノウハウを12時間のカリキュラムで学校のように学べるのが、J-RECの不動産実務検定、通称「大家検定」です。
 2010年に北海道で大家検定の講座を立ち上げて、たくさんの大家さんに来ていただきました。その卒業した受講生さんの定期的なフォローアップ勉強会が「北海道大家塾」のスタートです。1級、2級座学で基礎を学んでも賃貸経営の現場ではテキストにかかれていない様々なことが生じます。また北海道・札幌ならではの事象もありますから、具体的な問題について一緒に解決していく場として、会員制の「塾」にしました。隔月の開催で50回以上、延べ3,000名近くの方が受講しています。現時点での登録会員は、無料会員が約1,000名、有料会員が約150名です。
 私は卒業後、大手ハウスメーカーに入社し、30歳まで戸建住宅の営業をやっていました。その後、先輩に誘われて賃貸住宅建築メーカーに転職し、札幌支店開設メンバーとして、いわゆる「アパマン業界」に入ったわけです。ここに数年いて、その後道内最大手の賃貸仲介会社から誘われ、その建築営業部門に移りました。
 賃貸住宅の建築の分野にいて一生懸命仕事をしたのですが、会社側は建てることが目的ですから、お客様に賃貸経営の知識や情報を与えようとしません。昔自分が建てたアパートが空室だらけになっていること、建てた後のお客様が大変苦しんでいる様子を見て、これでいいのだろうかと思う日々でした。そのような中で、不動産コンサルタントの浦田健氏のことや大家検定を知りました。
 賃貸住宅経営で苦戦する大家さんが多いのは、強引に建てさせるハウスメーカーや金融機関も悪いけれど、知識や情報も持たず、勉強せずに相手任せで契約する大家さんにも責任があります。大家さんに勉強する場を提供し、知識と情報を伝える仕事をしようと考え、J-RECの北海道支部立ち上げと同時に独立しました。

――ご自身も物件を所有し、賃貸経営をされているそうですね。

原田 現時点では、2棟20世帯の大家です。最初はサラリーマン時代の今から10年前、新築の1LDK・12戸のアパートを室蘭で購入しました。この物件は現在も所有しています。その後、小樽や札幌、恵庭で既築・新築合わせて4棟を購入し、うち3棟を売却しました。どういう物件をどのように買い、どう運営し、どのタイミングで売却すべきかを、大家の一人として実践してきています。塾の大家さんとは、私自身のこうした売買、運営管理の経験、成功と失敗を踏まえてお話しさせていただいていますし、メールマガジンやニュースレターにして伝えています。
 また、塾生の中には、親から引き継いだ難しい物件を見事に再生し、各地の大家会から講演を依頼されている方もいらっしゃいます。やはり実際に経験し、勉強した成果を実践した方の話は、私たちコンサルタントにとっても勉強になります。


管理会社を管理する

――大家さん=オーナーが持たねばならない知識、情報で最も大切なものはなんでしょうか。

原田 大家検定で学ぶべきことは広範多岐にわたっています。賃貸経営をしていくうえで学んでおくべきことはたくさんありますが、まず重要なことは、大家業はサービス業だということを理解し、そのためのマーケティングの視点を持つことが大切です。サービス業だから、お客様に来ていただかなければなりません。つまり、入居者が入るには何が必要か、何が求められているのかを知るということです。客付けのシステム、業界の流れ、お客様の好みやニーズ……それらを理解し、どう対応すべきがを考える。そういう視点を持たず、ハウスメーカーや金融機関が満室想定で試算する収支プランを鵜呑みにし、建物の建て方も任せきりにするようでは、最初の時点から経営としては危ういものとなります。
 収支についても、自分の物件が実際に儲かっているのかどうか、苦戦しているとして毎月いくらの金がかかっているのか、そういう基本的なところも押えていない大家さんも少なくありません。もともと資産家だったり収入が多い方は、収支が悪くてもなかなか実感されず、いよいよにならないと気がつかない。私の塾にも、困った状態になってから駆け込んでくる方がいらっしゃいますが、それでも何が原因で困っているかわからない状態の方もいます。「知識がなくてハウスメーカーに騙された」という話をよく聞きますが、社会的地位の高い専門的な仕事をされている方でも、ご自分の賃貸物件の経営数値には無頓着で知ろうとしなかったという方が案外多いのです。

――そういう方へのアドバイスはどのようにされているのですか。

原田 まず収支の見直し。本格的なコンサルティング契約をした場合は、売却や借り換えも視野に徹底的に見直しを行います。相談案件が増えたので、従来からの資産運用や管理運営コンサル、相続に強い税理士事務所との連携に加え、自社で宅建業者登録も行い売買も任せていただける体制を整えました。もちろん、せっかくの物件ですから、できれば売らずに収益を生み続けるものに再生してほしいと思います。リフォームやメンテナンスなどのコストを適度に圧縮し、運営費を下げるためにはどうすべきか、そういう知識や情報をご提供しています。
 売らずにどうやって満室にし、退居者を出さないようにするか……それには管理会社にもしっかりやってもらわねばなりません。「管理会社を管理する」ことも重要なのです。大家さんの中には、自分の物件のホームページを作成し、満室時でも内容を更新し、物件の魅力を常に情報発信している方もいます。そこには、「部屋が空いたら連絡してください」というメールがきています。ホームページで物件探しをすることが常識になった現在、入居者集めも、不動産会社に任せっきりにするのではだめなのです。そういう支援も行っています。

北海道大家塾のご案内
https://www.hokkaido-ooyajuku.com

*不動産実務検定のご案内
https://www.ooyakentei-hokkaido.com



原田哲也(はらだ・てつや)氏
 北海道北見市の出身。札幌の大学を卒業し、大手ハウスメーカーに勤務。釧路での勤務を経て、賃貸住宅建築会社に転職し、札幌支店開設に関わる。その後、道内最大手の不動産管理会社の建設部門に移り、2010年に独立しオーナーズビジョンを設立。不動産経営や建築設計、企画開発のコンサルティング、ファイナンシャルプランニングや資産運用と管理のコンサルティング、講習会・セミナーの講師として活躍。


オーナーズビジョン株式会社
北海道札幌市豊平区平岸5条7丁目8番22号
第二平岸グランドビル2階
TEL:011-827-1021 FAX:011-827-1017
https://www.ownersvision.com/
賃貸経営のコンサルティングのほか、賃貸物件管理業務、J-REC 不動産実務検定北海道支部事務局、北海道大家塾事務局などを担う。

需要が多く供給が少ない戸建賃貸 これからの投資物件の主役に

2018.10 

戸建賃貸のニーズは一気に顕在化する

 賃貸住宅の空室が増え続ける中、“需要が多く供給が少ない”とされる戸建賃貸住宅への関心が高まっています。戸建賃貸住宅専門のハウスメーカー・洋館家本店グループの福田功代表に、戸建賃貸のメリットと今後の可能性について伺いました。






福田 功
洋館家本店グループ代表

「マイホーム」と胸を張れる賃貸住宅

――洋館家本店グループは戸建賃貸住宅専門メーカーとして全国展開をされています。どのような商品をどのように販売しているのですか。

福田 当社は「高品質・低価格」の住宅を、全国一律で「定価販売」しています。販売・施工は本部である当社と、全国約1,500社の施工店・販売店という会員企業が行っています。
 日本の住宅の最も大きな問題は価格が高く不明朗だということです。それを解決していくために、当社では規格住宅を正価で販売しています。全国で多数販売する住宅の資材を本部が一括購入しますから、一流メーカーの資材も低価格で入手できます。もちろん、寒冷地仕様や付帯工事、離島などでの資材運賃などで追加料金も生じますが、それも明確化しています。
 規格住宅ですから注文住宅とは違い、購入者の個別のご要望には応えることはなかなかできません。個別注文はすべてオプションになりますし、そういう営業面も含めたコストを下げることで低価格が実現するわけです。低価格でも品質を落とさない。当社の商品は、2020年の省エネ基準に適合していますし、さらにその先の2030年に国が目指す住宅の水準をほぼクリアしています。いま建てても、20年以上先まで十分通用する住宅です。
 全国の会員企業はこの規格住宅を住宅購入者に向けて持ち家用としてしても販売していますが、本部が主力としているのは戸建賃貸住宅です。一戸建ての貸家というのは昔からありましたが、住宅としての品質は必ずしも高いものではなかった。貸家として建てる側はコストを抑えたい。その結果、「安かろう悪かろうの」の住宅になっていたのです。当社が目指したのは、借りてはいるけれども「マイホーム」と胸を張れる住宅でした。

――早くから戸建賃貸住宅に注目していたようですが、その理由は。

福田 アパートの供給過剰が言われる以前から、戸建賃貸には需要があると考えていました。当社グループの不動産の仲介や管理の部門から上がってくる入居者の不満やトラブルを聞くと、多くは音の問題。集合住宅では子育て世代が伸び伸び暮らすことがなかなか難しいということで、できれば一戸建てに住みたいという人は多い。けれども、一戸建てを買う余裕はなく、貸家はみんなチープだという現実がありました。そこで良い貸家を安く建てれば若い人もリーズナブルに借りられる。あるいは地主さんが負担なく効率の良い賃貸経営ができるだろうと考えたわけです。
 そして現在、全国的な賃貸住宅の空室率の増加の中でも、当社の商品による戸建賃貸住宅はどこもうまっています。賃貸用の新築の一戸建てというのはなかなかありませんから、どのエリアでもすぐうまるのです。賃貸入居者は建売を購入した感覚で住んでいて、お子さんが小さな時に入居し、すでに高校生という方もたくさんいらっしゃいます。施主さんは投資した分を十分回収されています。

「買うから借りる」への意識変換が生じる

——無理して一戸建てを買わなくても、同等の戸建賃貸を借りて住めば良い、ということですね。

福田 これまでの日本人には「住宅双六(すごろく)」という人生ストーリーがありました。就職などで田舎から都会に出て小さなアパートに住む。結婚して子供ができて少し広いアパートや貸家に住み、やがて住宅ローンで家を建てることで“あがり”。ファミリータイプの賃貸マンションや、分譲マンションなども登場しましたが、基本的にはこの双六のパータンが続き、高度経済成長期のモデルのままです。高度経済成長期であれば、高い住宅ローンを払い続けても給料は毎年上がり、物価上昇で借金は相対的に目減りします。終身雇用で退職金もそれなりに払われますから、それでローンの繰り上げ支払いもできました。
 しかし成熟社会を迎えた現在、そのような人生設計は誰にもできなくなっています。格差社会も深刻化する中で、住宅という超高額商品を購入し、それを一生かかって払っていくことが果たして良いことか、そもそもそういうことが可能なのか、ということを日本人のすべてが考えなくてはならなくなっています。ローンを組んだがリストラされたとか、共働きでローンを払っていた夫婦が離婚することになったけれど借金の負担をどうするか決まらない……ということはよく聞く話です。とくに問題なのは、ローンが払えなくなっても売るに売れない、売値が購入額に遥かに及ばず売っても借金が残る、という現実です。
 こういう現実を知り、生涯賃金を子供の教育や自分のやりたいことのために使おうと考え、「家は買わない」という選択をする人がこれからどんどん増えるはずです。

——供給過剰と言われる賃貸住宅も、まだまだ需要があるということですか。

福田 それでもやはり、集合の賃貸住宅は供給過剰です。「買えないから借りる」のではなく、「一生借りる」というニーズに応えられる物件なら残るでしょう。「家は借りる」と考えたとき、借りるのですからそれぞれのライフステージ、ライフスタイルに応じた住まいが選ばれるようになります。「いずれ(買って)一戸建て」ではなく、「最初から(借りて)一戸建て」という選択をする人もたくさん出てきて、潜在化している戸建賃貸のニーズは一気に顕在化するはずです。
 当然、集合住宅を選ぶ入居者もいるでしょう。でも、これまでのような「賃貸をやるなら何が何でもアパートで」という風潮はなくなってくるでしょう。もちろん、東京都心に3LDKの戸建賃貸を建てろとは言いません。けれども、郊外のバス通勤圏などであれば、駐車場付きの戸建賃貸を分譲した方が集合住宅よりも効率的な投資ができます。また、地方都市の市街地の小さな土地に建つ戸建賃貸などは、どのエリアでも大変人気です。
 土地活用や投資をお考えの方には、立地や市場環境、投資と回収の計画などを慎重に考慮すれば戸建賃貸という選択が大いに考えられると申し上げたい。新築の戸建賃貸を待っている方は全国にたくさんいらっしゃるのですから、そのことの理解が広まれば、戸建賃貸は投資物件の主役に躍り出るかもしれません。






福田氏の著書プレゼント
『RA投資マニュアル』

 福田氏と税理士の黒木貞彦氏との共著による一般投資家向けの本。供給過剰となっているアパートや賃貸マンションへの投資をやめ、需要があり供給が不足している戸建賃貸住宅に目を向けようという提案をわかりやすく掲載している。
 本誌読者に抽選でプレゼンします。詳しくは18ページを参照ください。

福田 功(ふくだ・いさお)氏
 1952年生まれ。慶応大学経済学部卒。栃木県鹿沼市を拠点に不動産開発、仲介、管理を行う晃南開発グループ(洋館家グループ)の総括代表。グループ企業の洋館家本店は2005年から低価格・高品質の戸建賃貸住宅の全国展開を本格的化。さらに、「住宅の通信販売」の構想を発表するなど、業界で注目を集めている。

株式会社 洋館家本店
栃木県鹿沼市西茂呂1丁目3番地13
TEL.0120-64-3138/0289-64-3138
https://www.youkanya.com/

家賃は物件の価値 目的に応じた投資・空室対策

2018.7 

「買っては駄目」を知ることが大切

 投資としての賃貸経営でのリスクは「空室」。その回避策は容易ではありません。投資目的のオーナーらに日頃からさまざまな空室対策を提案する専門家にお話を伺いました。



片平 智也
JSHI公認ホームインスペクター、
CPM®(米国不動産経営管理士)
株式会社アートアベニュー        
プロパティマネジメント事業部 課長

初期費用や条件の見直しで空室対策

――約束された家賃保証が行われず、運営会社が破綻するという事件がありました。

片平 家賃保証というしくみがすべて悪いということではありません。しかし、業者の事業計画の中には、収入や支出の見込みが甘いのではないかと思うものもあります。ですから、投資するオーナーさん側がある程度の知識と、判断の物差しを持つことが必要です。
 当社でもオーナー様や投資をお考えの皆様に物件見学のバスツアーを実施しています。売ることが目的なのではなく、投資を成功させることを目的とした企画です。1日に5~6棟まわって「これは買っては駄目」を知るセミナーとも言えます。物件の良さだけでなくリスクも知り、それを回避する策などを、実際に物件を見ながら考える機会です。私どもの経験や、市場から集めた情報などを提供しながら、ご一緒に考えます。投資で失敗しないための一定の物差しを持っていただくための取り組みです。
 投資のためにアパートを建設する場合、最も大事なのは「立地」です。賃貸に関するさまざまな調査でも、入居者の決め手になるのはほぼ共通して、①家賃、②路線・駅・駅距離、③間取り・面積、④設備・仕様、⑤初期費用、⑥築年数が挙げられますが、投資する側として「事業として成り立つかどうか」の大きな要素は「立地」だということを、まずおさえていただきたい。もちろん立地が悪くてもその分安く買えたり、創意工夫できるなら「買い」という場合もあります。でも、一般的には立地が悪い場合は、苦戦することが多いですから、分析や判断を慎重にしていただければと思います。

―入居者獲得では、築年数という要素も大きいのでは。

片平 貸用物件は供給過多ですから、新築はうまるけれど古くなるとなかなかうまらないということはあります。しかし、古くても大規模修繕やリノベーションによって収益物件として再生できる場合もあります。つい最近も、都心にある築50年のRCのマンションを大規模修繕したところ、見事に満室となり、収益物件として蘇りました。
 築年数が古くなれば建て替えを検討することになります。資金手当てなどでそう簡単にいかないことも多いでしょう。古い物件の中には、建て替えをしなくてもリノベーションなどで人気を保てるものもあります。古い物件はまず、耐震診断をやるのが良いでしょう。その結果、必要であれば補強しなければなりませんが、ある程度状態が良かったり、補強にお金がそれほどかからないようなら、建て替えは10年先、20年先と伸ばして、いずれ建て替えとなるまでに資金を貯めるという判断もあります。もちろん、その計画をしっかり立てるということは言うまでもありません。

―甘めの事業収支計画を信じて賃貸経営をはじめて、苦戦しているオーナーも少なくありません。対策はありますか。

片平 ハウスメーカーの言うがままに建ててしまって、入居者が入らないという例はたくさんありますね。既存のアパートで立地以外の対策となるのは、「間取りの変更」「人気の高い設備を導入」「初期費用などの、条件の見直し」といったことがあげられます。
 「初期費用」の見直しであれば、「敷金なし」キャンペーンで展開して成功したという例も数多くあります。キャンペーンは根本的な解決ではありませんが、即効性が高い。3月などの繁忙期には特に効果があり、苦戦している物件も在庫がはけます。当社の管理物件でも試みて、今年は98.6%という稼働率になっています。
 「条件」の見直しであれば、「ペット可」にするなど、入居条件を変えるという方法もあります。
 それでも、立地の悪いところはなかなか入居者を獲得できない。そういう場合私は、思い切って別の物件に買い替える「資産の組み替え」や「用途変更」などを提案しています。「用途変更」では、立地エリアの情報を集め、将来的にチャンスがありそうな用途を検討します。「駅からとても遠いけれど、クルマなら高速道路のインターが近い」という物件を、居住用から倉庫に変えたという事例もあります。エリアについて調べ、需要と供給のバランスを見て賃料の査定をするのが私たちの仕事。この場合の賃料とは、倉庫として貸す賃料でした。

いかに家賃を下げないかもウデ

片平 空室対策を提案する私たちにとっては、いかに家賃を下げないで成約させるかが腕の見せどころです。オーナーの事業を考えたら、家賃を下げるのは最後で、先にやるべきことがたくさんあるはずです。物件の症状とそれに合わせた対策を提案するのがプロです。いろいろな対策を検討したり実施したりせず、安易に家賃値下げを要求する不動産会社は、いかがなものかと思います。
 たとえば、郊外で築年数も経っているというある物件の場合、賃料が相場よりも少し高いこともあり、ずっと空室のままでした。オーナーに投資の目標を伺ったところ、「家賃収入があるにこしたことはないが、どうしても賃料は下げたくない」ということでした。とはいえ、お部屋も敷地内駐車場もずっと空いたままではその目標も達成できず、元も子もありません。キャンペーンなどのを手を打ちましたが、成約まではいたりません。あともう一歩「物件の強み」が必要だということで検討してみると、この物件の駐車場の台数は多く、空室の数よりも駐車場の空きの数が多いことがわかりました。この周辺は駅から遠く、クルマは必須。そこで、オーナーに「家賃は下げないが、どのみちずっと空いている駐車場なのだから『駐車場付き(無料)物件』というPRをしてはどうか」と提案しました。それが奏功し、空室をうめることができました。
 このように、できるだけ家賃以外で効果のある提案をして、それでもどうしても決まらなかったら、最終的に家賃を触ります。家賃は物件の価値でもあるのです。東京圏で販売されている新築アパートの場合、最近は表面利回りが6%台後半から7%くらいです。その場合、満室家賃を重視して家賃を下げてしまうと、収益還元法で見ると下げた家賃×12カ月÷7%分の価値が下がったことになってしまうのです。もちろん、インカムゲインを求めるなら、高い家賃で空けておくのもよくありません。そのオーナーの投資目的を最初にヒアリングすることが大事です。
 先日も「アパートを買い増ししたい。融資は受けられるか」といった相談がありました。融資はつくが、自己資金も使い果たしてしまっていいものか、ということ。かといって、フルローンではインカムゲインが少ない=家賃収入が残らない、という試算となります。聞けば、投資は保険的なものなので、土地の資産価値や評価を重視して月の収入はそれほど多くなくてもいいとのこと。ならば、自己資金を残したまま、物件はフルローンでいいではないか、という結論になります。
 家賃は物件の価値と言いましたが、空室対策も同様で、投資の目的がインカムゲインなのか、売った時のキャピタルゲインなのか、その目的を聞き、効果を検討したうえで、最終的に進めていくべきだと思います。

片平智也(かたひら・ともや)氏
 北海道出身。飲食業、広告営業などを経験し、29歳の時にアートアベニューに転職。同社の広告を見て「すごく倫理観を持って、オーナーのエージェントになり、自社も楽しく幸せに働こうという内容に興味を抱いた」のが入社のきっかけ。入社後は、現場管理、リーシング業務、リフォーム提案などを経て、現在は賃貸管理の全般のマネージャーとして、ホームインスペクション(住宅診断)と投資分析の結果から、オーナー様へロジカルな提案を行っている。趣味はトライアスロンと投資信託。

株式会社アートアベニュー
東京都新宿区西新宿2-4-1新宿NSビル18F
TEL 03-5339-0551 FAX 03-5339-0552
http://www.artavenue.co.jp/

お金を媒体とした 「幸せ」の相続が真の目的

2018.4 

何を守り、何を引き継ぎたいのか

 不動産と相続対策のコンサルティングを専門とする先原秀和氏に、賃貸住宅オーナー向けの相続対策のアドバイスを伺いました。先原氏は、相続対策の手法以前に、まず何を守り、何を引き継ぎたいのかを、相続にかかわる関係者で共有することが大切だと話しています。





先原 秀和
CPM(米国不動産経営管理士)、相続対策専門士
オーナーズエージェント株式会社 経営企画部 部長

「借金=相続対策」の短絡は危険

――アパート経営が相続対策となると言われて久しいですが。

先原 確かに相続対策となる場合があります。けれども「なぜアパートを建てると相続対策になるのか」をしっかり理解しないまま始めてしまう方も少なくないようです。「借金=相続対策」と誤解している方もいます。
 アパート経営が相続の対策となるのは、その建築や購入にかかった金額と、その不動産の相続財産としての評価額に違いがあるからです。つまり相続税への対策です。例えば、1億円で建築したアパート、相続財産としての評価は6,000万円程度になることもあります。更には、そのアパート用地も更地時より20%程度の評価減を受けられます。
 しかし、このようにアパート経営によって相続税がある程度減らせたからといって、それだけで相続対策の全てがうまくいったとは言えません。そもそも、アパート経営自体が赤字では本末転倒ですし、赤字経営のアパートは相続人も喜びません。市場の変化や築年数の経過に伴い、アパートの価値そのものが変化する可能性も考慮しておく必要があります。言い換えれば、経営が順調で将来的にも価値が維持されるようなアパートは、相続後も家賃収入や売却利益を相続人にもたらすことができるため、相続税以外にも大きなメリットがあるのです。
 相続対策に限らずアパート経営でよくある失敗は、一括借上げがあるからと始めたものの、後にその借上条件が変わり、家賃収入プランが大きく下がってしまうということです。最近も、シェアハウスのオーナー募集を派手にやっていた業者が、オーナー様に家賃が払えなくなったと大きなニュースになっていました。我々から見れば、最初からビジネスモデルに無理が感じられていました。多くの人が「借り上げてくれるから安心」と、いわば虚構のストーリーに乗ってしまった。
 業者側に問題があるのは確かですが、オーナー様が一括借上げを盲信してしまった結果とも言えます。借上業者側がずっと損をし続けるような無理な条件下で一括借上げが続くわけがありませんので、これを頼りに賃貸経営に乗り出すときには、その事業計画が現実離れしていないのか見定めることは絶対に欠かしてはいけません。

まず「納税」と「分割」を考える

――では、相続で失敗しないためには、まず何を考えれば良いですか。

先原 相続対策となると、すぐに「節税対策」となりがちですが、まずは「納税」と「分割」の対策です。相続税は相続発生から10カ月後には、待ったなしで現金一括納付が基本です。納税資金の計画や準備がなければ、いざ相続が起きた際に、不動産を慌てて売却するなど、望まない方法を余儀なくされるケースもあります。
 そして、「分割対策」です。特に、不動産オーナー様の多くは、「相続時の分割」で頭を悩ますことになります。オーナー様に私がまず問いかけたいことは、「不動産を含めた財産を、相続人が揉めることなく分け合えるか」ということです。アパート1棟とご自宅があって、奥様がいて、お子様が2人だとします。それらを誰にどう相続させるつもりなのかをすぐに答えられる方は少なく、そしてそれがトラブルの元にもなるのです。
 不動産は高額であり、かつ分割しにくい財産の筆頭格です。だからこそ、相続トラブルの引き金にもなりやすい。不動産をはじめとした財産を、相続人全員が納得する形で分けるための準備は、相続を考えるうえで必要不可欠なのです。
 お金のプロである銀行や税理士さんは、この土地はいくらだからいくら税金がかかる。だからこうして節税できます、といった提案をしてくれるでしょう。しかし、我々は不動産のプロですから節税よりも先に、その不動産の最有効活用法、価値の維持向上のプランを考えます。財産を目減りさせないように、将来価値に不安のあるような不動産の入れ替え(買い替え)提案も我々の守備範囲です。
 複数の相続人が不動産をはじめとした財産の分割で揉めないよう、財産構成全体のバランス調整や分割プランの提案も取り扱います。相続のアドバイスをする専門家はたくさんいますが、不動産オーナー様は、ぜひ我々のような不動産の専門家も相談相手の一人に加えていただければと思います。

相続でどんな「幸せ」を得るのか

――相続対策=お金の問題と考えてはいけないということですね。

先原 その通りです。相続での失敗やトラブルの大半は、お金のことを先に考え過ぎてしまうことで生じます。相続は財産(お金)を相続させるのではなく、財産という媒体を通じて「幸せ」を相続することが目的だと私は考えます。しかし、被相続人や相続人となる家族それぞれが考える「幸せ」にズレがあったり、お互いの気持ちを理解していないということは、仲の良い家族であってもよく起きがちです。
 だからこそ、相続のことを皆が元気なうちに話し合って、家族の思いを共有しておくことが大切なのです。
 お金が先、お金が目的となってしまうと、引き継がせたい、引き継ぎたいはずの「幸せ」、豊かな人生といったものが得られず、逆の方向に向かってしまうことさえあります。例えば、相続税を安くしたいという目的のために、親子で無理な同居をすることになるといったことが実際にあります。それは、果たして良い相続対策かということです。
 何が何でもその土地の所有を継続しなければと、余計な負担を抱え込むことになる人もいます。守るべきは土地そのものなのか、財産価値の総額なのかということも考えてみるべきでしょう。相続税の支払いが多少増える相続対策であったとしても、相続税を最小化するプランよりも良い結果に繋がることもあるのです。
 自らが築いてきた「幸せ」を、財産という媒体を通じて、次世代が望む形で引き継いでいく。つまり相続とは「幸せ」のバトンリレーだと理解することこそ、最高の相続対策の出発点ではないでしょうか。

先原秀和(さきはら・ひでかず)氏
 神奈川県藤沢市出身。高校卒業後にアメリカ留学を経て貿易と不動産業をいくつか経験。2002年にプロパティマネジメント(賃貸経営管理)の世界で著名な藤澤雅義氏が率いるオーナーズエージェントに入社。CPM®(米国不動産経営管理士)、賃貸不動産経営管理士、相続対策専門士などの専門資格を持ち、賃貸経営や相続のコンサルタントとして活躍中。アメリカに本部がある不動産経営管理の資格者団体の日本支部・IREM JAPANの理事も務める。

オーナーズエージェント株式会社
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空室が埋まらなければ 用途を変えることも選択肢

2018.1 

賃貸住宅経営でもセカンドオピニオンを

 賃貸住宅オーナーのアドバイザーとして、また相続対策における不動産活用のコンサルタントとして活躍する渡邊宏氏に、空室対策を中心としたオーナーへのアドバイスを伺いました。





渡邊 宏
CPM(米国不動産経営管理士)
GIC不動産管理株式会社 代表取締役

居住用が難しければ別用途に転換

――全国的に空室や空き家が増えています。「効果的な空室対策が何か」という点がオーナーたちの一番の関心事ですが。

渡邊 そうですね。私のところにもそういう相談がたくさんあります。ハウスメーカーに言われるがままに不便なところにアパートを建てて、ちょっと古くなったら入居者がなかなか集まらない。どうしよう、といったお話も多いです。でも極論すれば、賃貸物件は1に立地、2に立地、3、4がなくて5に立地です。そして、立地は変えることはできません。
 では、どうするか。私は、居住用の賃貸としての運営が難しいと判断される物件は、思い切って別の用途での貸し方を考えてはどうかと提案しています。集合物件を行政とタイアップして福祉施設にしたり、一戸建ての空き家であれば民泊やカフェとして活用したりと、様々な事例があります。それらはオーナーが経営するのではなく、運営会社に一括で借り上げてもらうわけですが、私の会社では、そういう事業者のご紹介や実際の利回りの計算などを行っています。
 もちろん、利回りなどオーナーにとってメリットがあればのご提案です。その利回りで貸して、投資の回収や次の修繕、あるいは建て替えの費用が捻出できるのかを考えます。私の仕事は、あくまでもオーナー側の利益の追求ですから。

「今は何もしない」も選択肢

――ハウスメーカーや管理会社の中には、リノベーションなどを提案する例が多いですね。

渡邊 これも、オーナー側で考える必要があります。立地を考えた上で、リノベーションで効果があるのであれば選択肢の一つです。ただし、リノベーションにどれだけの費用をかけるのか、家賃での回収を考えてどれだけならかけられるのかの検討は慎重に行うべきです。言われるがままにリノベーションをしたのでは、回収は難しくなる場合があります。修繕したとしていくら稼げる物件なのか、そこから逆算して、修繕の予算を組み立てなければなりません。
 以前から問題視され訴訟にもなっている、ハウスメーカーによる借上げ家賃保証についても、保証契約を継続すべきかどうかの判断、つまり将来にわたる費用回収についてしっかり計算してみることが大切です。家賃保証では家賃をいくらにするかはハウスメーカー側が決めます。これが契約更新のたびにどんどん安くなっていくことに、多くのオーナーは不満を持ちます。ならば保証契約を解除して自分で適正家賃で経営したらどうなるのか、それを試算してみてそちらが得ならば契約を止めればいい。入居者確保が難しいと考えるなら継続。実は「今は何もしない」が、オーナーにとって最良の選択である場合も多いのです。そういった判断を行い提言するのも私の仕事です。
 借上げ家賃保証の収支計算の場合、見落としがちなのが修繕費です。ハウスメーカーの借上げ家賃保証では、長期修繕計画も組み込まれているのがふつうです。そしてその施工業者も指定されている場合がほとんどですが、この見積もりがとても高い場合が多い。ここで払う費用も、当然、回収していかなければならないわけですから、その修繕費用が適正かどうかの査定、その費用を含めた投資回収の試算も必要です。

賃貸住宅経営者のコンサルタントとして

――ハウスメーカーや管理会社の契約や提案を、オーナー側の視点でチェックするわけですね。

渡邊 そうです。いわば「セカンドオピニオン」ということですね。既存物件の空室対策の提案ばかりでなく、相続対策などでハウスメーカーや銀行などから土地活用のいろいろな提案が来ていますが、これはどう判断すればいいのか、というご相談に応える案件も大変多くなっています。
 私の会社は業種としては不動産会社ですが、私はCPM(米国賃貸経営管理士)の資格を持っていて、この資格者はオーナー利益の最大化のために仕事をします。オーナーが得をしない提案は排除します。ふつう不動産会社は入居者とオーナーの間に立って双方の代理人のようなことをしますが、CPMは明確にオーナー側です。
 オーナーは資産活用や投資、相続などの目的のために賃貸経営をしているわけですから、その目的に照らしてメリットがなければ物件売却や賃貸経営そのものをやめる提案もします。収支についての「未来予想図」を作ってお見せし、今の損で将来の大きな損を防ぐという提案もします。

――不動産業というよりも、コンサルタント業ですね。

渡邊 そういうつもりで仕事をしています。会社の社名であるGICは、Grasp(把握)、Improvement(改善)、Contribution(貢献)の頭文字をとったものです。お客様からご相談を受けたら、まずはその現状をしっかり「把握」する、その上で、最適な「改善」提案を行う。それを丁寧に実直にやることが、お客様への「貢献」となるということを仕事の基本の流れとしています。独立にあたり、諸先輩からも「不動産業は誘惑が多い仕事だから注意しなさい」と言われましたが、基本をしっかり忘れず守っていくために現社名にしました。
 以前、不動産会社に営業マンとして勤務していた私は、約120名ものオーナー様を担当として受け持っていました。お客様のご要望はなんでも応えていかなければならないと考えていましたが、お客様の要望は様々です。その一つひとつに応えるのは大変ですが、とにかく頑張って応えるのが営業だと思っていました。でもある時、ある案件を頼まれてそれをやろうとしたら、専門家に「そのままやると違法だ」と指摘されました。その時、お客様の要望をただ受け入れるのではなく、きちんとした知識を持って適切に提案し対処しなければ、結果としてお客様のためにもならないのだと気づきました。
 ちょうどその頃、アメリカの資格であるCPMのことを知り、この資格を取ろうと決めました。CPMの講座では、まず最初に「倫理」の授業があります。世間一般の不動産業に対する印象は、「倫理」とは遠いところにあるかもしれませんが、CPMとはそういう考え方で仕事に臨む資格者です。
 実は大学を卒業し飲食チェーンというサービス業に勤めていた私自身、20年前にこの業界に入る前は、不動産業はいかがわしいと感じていました。飲食チェーンを辞めた私は、旧知であった前の会社の社長にうちに来ないかと誘われた時も、正直にその印象を伝えました。すると社長は「自分もそう思う。だが、日本の不動産業は、これから必ずサービス業化する。そうしなければならない。そのためにも、サービス業にいた君のような人が必要だ」と言われ、その言葉に痺れて入社しました。社長にはCPM資格取得でも応援していただきましたが、そういう考えが根底にあって、今もこの仕事を続けています。

GIC不動産管理株式会社
 「収益を改善する管理会社」として、お客様の利益の最大化を目指して渡邊氏が設立。不動産経営に必要なノウハウを持った専門家と厳選して提携し、不動産管理から相続等での不動産活用のコンサルティングまであらゆる相談にワンストップで対応している。

埼玉県さいたま市大宮区桜木町2-351 3F
TEL 048-782-7614
FAX 048-782-7615
http://gic-fudousan.jp/

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